大企業(JTC※)の学歴差別、男女差別や正規・非正規差別は一般的に知られている差別ですが、この他にも企業によっては様ざまな差別が存在し、その会社独自の身分制度があります。
大企業(JTC)の待遇は、差別的な側面があっても一般的には十分恵まれているため、その不条理を受け入れることができれば、比較的幸福なサラリーマン人生を送ることができます。
我慢できるかどうかは、事前にその不条理を知っているかどうかにかかっています。
※JTCとはJapanese Traditional Companyの略で、古い体質の日本の伝統的な大企業を揶揄するネットスラング
不条理な身分制度を承知の上で大企業(インフラ企業)に転職して長年勤務した筆者(2023年退職)が、大企業(JTC)の知られざる身分制度について解説します。
<自己紹介>
筆者本人(1960年生 2023.11撮影)
筋トレ歴16年 ボクシング歴10年
<筆者略歴>
1984年 東京大学工学部建築学科卒業後、ゼネコンに入社
1988年 インフラ企業に転職
2018年 子会社の不動産会社に転籍
2023年 退職
目次
大企業の知られざる身分制度とは?~5つの差別
一部の業界を除いて、日系の伝統的な大企業(JTC)には、以下解説する5つの差別が絡み合った身分制度があります。
①事務系と技術系との間に存在する差別
一部の業界を除いて、大企業(JTC)では事務系が優遇されます。
事務系は技術系に比べて、無条件で2~3年昇進が早い会社もあります。
大手でもゼネコンや組織設計事務所は、技術系がヒエラルキーは上です。
もっとも出世できない業界に、事務系エリートは就職しないという事実もあります。
②技術系の系統間に存在する差別
系統の違いとは、大学卒業学科の違いです。
例えば、電気、機械、土木、建築などです。
筆者が勤務したインフラ企業では、ヒエラルキーは系統の社員数で決まっていました。
ヒエラルキーの違いが、能力評価や業績評価に大きく影響します。
系統の社員数がモノを言う差別ですので、業務効率化による社員数の削減は進みません。
③ジェネラリストとスペシャリストとの間に存在する差別
日本には何故か、ジェネラリストの方がスペシャリストよりヒエラルキーが上という認知バイアスが存在します。
そして、日系の伝統的な大企業(JTC)では、「学歴、性別、組織権力のカンと好み」で入社時に選別(選別主義)した幹部候補生(事務系が主流幹部候補)をエリート・ジェネラリストに仕立て上げます。
短いタームで花形ポストを巡っただけのエリート・ジェネラリストは、広く浅い経験と知識しか持たない素人集団です。
その素人集団が、日系の伝統的な大企業(JTC)では君臨しています。
ジェネラリスト(万能型秀才)は、現在のポスト工業社会では通用しない
ジェネラリストとは、万能型の優秀さを備えた人材です。
しかし、その万能型が通用したのは、遥か昔1980年代以前の工業社会です。
工業社会とは、人口増による内需拡大により、良い商品をつくれば簡単に売れた少品種大量生産の時代です。
今や「単純に必要なモノが売れる」時代ではなく、「モノが溢れ、需要を創造しなければ売れない」ポスト工業社会です。
ポスト工業社会においては、多様化し専門化された変化の激しいニーズに対応できなければ、商品は売れません。
そのため、広く浅い知識と経験しか持ち合わせない万能型のアプローチは全く役立たないのです。
欧米には、ジェネラリストはいません
したがって、「ジェネラリスト」は和製英語です。
これは、雇用形態の違い、すなわち日本のメンバーシップ型と欧米のジョブ型の違いに起因します。
日本のように新卒一括採用で労働力をとりあえず確保し、会社側の都合で仕事を割り振るため、数年で仕事の内容がコロコロ変わることもあります。
そのため日本のホワイトカラーは、結果的に、多かれ少なかれジェネラリスト化しています。
ジェネラリストという言葉は聞こえはいいですが、結局、身に付いたスキルは大したことの無い素人集団と言わざるを得ません。
欧米では、日本のホワイトカラーのようにコロコロ仕事が変わると、無能のレッテルを貼られてしまいます。
④スタッフ部門とライン部門との間に存在する差別
事務系の素人集団エリート・ジェネラリスト(幹部候補)が幅を利かせているのが、スタッフ部門(バックオフィス又は管理部門)です。
スタッフ部門とは、直接売上に結びつかない会社の事業管理を任される部署のことをいいます。
具体的には、以下のような部署です。
経営企画部、秘書部、広報部、人事部、総務部、財務部、法務部、監査部
スタッフ部門は本来、売上と利益を生むライン部門をサポートすることが主な役割とされています。
しかし、将来を約束された幹部候補が集結しているため権力が集中し、素人集団が専門家集団であるライン部門を指導・管理する立場になっています。
彼らはライン部門の経験もないくせにラインの仕事に口を出す権限を持ち、しかも責任は取らなくてよいという特権階級です。
この特権のおかけで彼らは減点主義を切り抜け、業績をでっち上げて出世していくわけです(彼らはこの特権を得るためにリスクを負わない安全なスタッフ部門に集結しているとも言えます)。
これでは、ライン部門のモチベーションもさがり、ムダな仕事も増えて、労働生産性は下がる一方です。
ちなみに日本は、「就業者1人当たり労働生産性」、「時間当たり労働生産性」いずれも先進主要7カ国中ダントツ最下位です。(関連記事:日本の労働~「量」「質」国際比較)
すごろく上がりのサラリーマン社長もスタッフ畑出身者が多い
大企業(JTC)の社長は、やはり幹部候補が集まるスタッフ畑出身です。
そのため、ますますスタッフ部門の権限が大きくなります。
大企業でもゼネコンのスタッフ部門は、ライン部門(建築現場)のサポートに徹しています
何故か?
答えは単純です。
ゼネコンの社長は、スタッフ畑出身ではなく、大企業には珍しく現場たたき上げだからです。
⑤新卒プロパー社員と中途社員との間に存在する差別
転職先では、前職での勤務年数は無かったこととなり、昇格(年功序列)の順番待ち行列の最後尾に並ばなければなりません。
この言い方は、ちょっと大袈裟かもしれませんが、いずれにしても定年まで準メンバー(外様扱い)で、正メンバー扱はされません。
その結果、不条理な能力評価や業績評価に甘んじることになります。
アルムナイ(出戻り入社の裏切り者)の場合は、一般の中途社員より更にキツイ仕打ちが待っています。
欧米では考えられないこう言った差別は、大企業の転職者比率が少なくても5割に到達しないと無くならないでしょう。
2021年4月から中途採用比率の公表が義務化(労働施策総合推進法の改正)
中途採用比率を公表させることによって、中途採用比率の低い会社が能力主義ではなく年功序列の会社と見なされる可能性があるため、ひとつの牽制になります。
政府は、この公表義務化を通じて、労働市場での通年採用を促し、中途採用の拡大を目指しています。
まとめ
✔一部の業界を除いて日系の伝統的な大企業(JTC)は、以下5つの差別が絡み合った身分制度ができあがっています。
①事務系と技術系との間に存在する差別
②技術系の系統間に存在する差別
③ジェネラリストとスペシャリストとの間に存在する差別
④スタッフ部門(バックオフィス又は管理部門)とライン部門との間に存在する差別
⑤新卒プロパー社員と中途社員との間に存在する差別