「一流大学に入って、大企業に就職できれば、一生安泰」
確かに、まだしばらくはこの神話も続きますが、その終焉は確実に近づいています。
終身雇用の概念が崩れ、リストラや転職が当たり前のアメリカを始め主要国では、既にこんな神話は過去のものとなっています。
この記事を読めば、大企業就職の潜在的リスクが分かります。
※ JTCとはJapanese Traditional Companyの略で、古い体質の日本の伝統的な大企業を揶揄するネットスラング
②大企業(JTC)の20代サラリマンの方
②始まった大企業神話崩壊の実態
③大企業(JTC)に就職したら覚悟しておくことは?
大企業(JTC)に長年勤務した筆者が、大企業神話の崩壊|その実態と大企業に就職したら覚悟しておくことについて解説します。
<自己紹介>
筆者本人(1960年生)
筋トレ歴16年 ボクシング歴10年
<筆者略歴>
1984年 東京大学工学部建築学科卒業後、ゼネコンに入社
1988年 インフラ企業に転職
2018年 子会社の不動産会社に転籍
2023年 退職
目次
大企業神話とは?
「大企業神話」とは、大企業(JTC)に就職すれば、終身雇用と年功序列で幸せなサラリーマン人生が保証され、さらに恵まれた退職金と年金で定年後も安泰という考え方です。
「大企業神話」は、実質経済成長率が年平均で10%前後を記録した1955年頃から1973年頃までの高度経済成長期に広まりました。
終身雇用と年功序列は日本特有の雇用システムであり、このシステムに裏付けられた「大企業神話」も日本固有なものです。
始まった大企業神話崩壊の実態
これまで日本の大企業(JTC)は、工業社会時代(1970年代以前)に成功した古い雇用システム(終身雇用と年功序列など)を凡庸なすごろく上がりのサラリーマン社長が惰性で続けてきました。
これは、ニーズが多様化・専門化し、その変化のスピードも速いポスト工業社会に適応することを怠ってきたことを意味しています。
その結果、ここ30~40年間の日本の凋落ぶり(世界競争力、時価総額、名目GDP)は惨憺たるものです。
今後、ポスト工業社会への適応に真剣に取り組まなければ存続が危うい大企業(JTC)から順に、日本の古い雇用システムを抜本的に見直していくことになるのは確実です。
実は、アメリカでも1980年代までは、企業との長期的な関係が一般的でした
フォード社に長年勤めた男性が主人公の映画『グラン・トリノ』や、40年間電話帳会社に勤めた男性が主人公の『マイ・インターン』など、高齢者を主人公にした映画では、「〇〇年間勤めた」という台詞がよく登場します。
長期にわたり真面目に勤めることは、日本と同じく美徳とされていたのです。
しかし、1970年代から日本のメーカーを含む海外企業との競争が激化し、アメリカ企業の業績は徐々に悪化しました。
IBM、コダック、AT&Tなど大企業の大規模なリストラにより、一つの会社で長く働き続け、勤続年数に応じて昇給や昇進が行われる雇用形態は急速に廃れ、成果主義が主流になりました。
①年功序列の限界
大企業(JTC)の多くは役職定年制を導入しています。
役職定年制とは、管理職が所定の年齢(55~60歳が多い)に達した時に、ラインから外れて役職を離れ、給料も減額される制度のことで、はっきり言いますとポストの新陳代謝と人件費削減を図るための「戦力外通告」です。
従って、50代以降の大企業サラリーマンにとって年功序列は、既に崩壊しているわけです。
そもそも、昇格の条件として勤務年数を個人の能力より重視する考え方は、一種の年齢差別(エイジズム)にあたり、世界常識からも逸脱しています。
年功序列制は、高度経済成長期に労働力を長期間にわたって囲い込むために考え出された会社都合の制度なのです。
ポスト工業社会に変わって30年以上が経過しました。
時代に全く合わない年功序列制を維持するのはもう限界です。
既に、ソニー、パナソニック、日立製作所、川崎重工業、みずほフィナンシャルグループなどが年功序列の廃止を発表しています。
②終始雇用の限界
2025年4月から定年制を採用している企業は、65歳定年制が義務化されます。
さらに2021年4月に施行された改正高年齢者雇用安定法により以下のが努力義務が課され、ゆくゆくは義務化される可能性が高い状況です。
主な改正の内容として、事業主は、
(1)70 歳までの 定年の引上げ
(2)定年制の廃止
(以下、略)
引用:高年齢者雇用安定法の改正~70歳までの就業機会確保~|厚生労働省
終身雇用制の継続に固執し、役職定年制を今のままにしておけば、今後、以下のような状況が起こります。
①50代で役職定年になれば、70歳まで最悪20年近く「給料が下がり、部下を失って、モチベーションがすっかり落ちた部長以下の元管理職が場合によっては同じ職場に居続ける」ことになる
②それを見た社員のモチベーションは当然下がり、もともと低い従業員エンゲージメント は底をつく
終身雇用制の継続と人件費の抑制という矛盾のシワ寄せを、これ以上、役職定年制に負わせるのは限界です。
そして、限界が明らかな役職定年制を廃止しても、ポスト工業社会に適合できない大企業(JTC)はこれ以上の人件費負担に耐えられません。
日本も金銭解雇を合法化し、終身雇用制を廃止するしかありません。
日本では、従業員の解雇は法律によって厳格に規制されていますが、アメリカでは原則自由(at-will 雇用)ですし、世界は「金銭解雇のルール化」が主流です。
日本の解雇規制は、遥か昔の高度経済成長時代に強化されたもので、その後の最高裁の判断などによる強化の流れは、大企業(JTC)の雇用慣行に追随したものです。
日本では終身雇用制が「従業員を保護するための制度」と解釈されていますが、ポスト工業社会ではむしろ「従業員を低賃金で奴隷化して飼殺す制度」と言えます。
主要先進国に比べて著しく低い日本の労働生産性の一因は、人余りで生産性の低い産業から生産性の高い産業への労働移動を結果的に阻止している厳しい解雇規制にあります。
解雇を容易にすれば失業率が下がる?
橘玲著『不愉快なことには理由がある』からの引用です。
不況で失業者が増えると、「労働者の生活を守るために社員を解雇できないようにすべきだ」と叫ぶひとが出てきます。
しかしこれは、逆に失業者を増やし、不況を悪化させ、人々を苦しめている可能性が高いのです。
(中略)
欧米主要国の労働市場を比較しても、解雇が容易なアメリカやイギリスは雇用率が高く、雇用規制の強いドイツやフランスの雇用率が低くなっていることがわかります。
解雇規制が厳しい場合、業績が悪化した際に解雇しやすい非正規社員だけを雇用する傾向が強まり、結果として経済格差が拡大する可能性があるのです。
③新卒一括採用の限界
純血主義、アンチ転職主義企業の代表格であるメガバンクが一斉に大量の中途採用を開始しました(下のグラフ参照)。
引用:3メガバンクが中途採用を拡大、狙いは? - 日本経済新聞 (nikkei.com)
理由は、ニーズの多様化・専門化・変化のスピード化に対応するための専門性と即戦力が新卒一括採用だけでは対応できないからです。
そもそも、はるか昔の工業社会(1970年代以前)で広まった新卒一括採用方式は、「量」の視点しか無く、「質」が求められるポスト工業社会では通用するはずがありません。
日本固有の採用システムである新卒一括採用も、そろそろ限界です。
④ジェネラリスト時代の限界
日系大企業(JTC)の社員には、個人の「キャリアプラン」という概念は無く、個人のキャリアのオーナーシップは会社に帰属します。
たとえば、営業部から総務部のように、それまでのキャリアとは全く関係なく、会社の都合で異動が決まります。
このように個人は会社の都合で使いまわされた結果、これと言った専門スキルを持たない「何でも屋の素人集団」に成り下がってしまいます。
日本では、この「何でも屋の素人集団」に「ジェネラリスト」とい言葉をあてがって不都合な真実を取り繕っています。
しかし、ニーズの多様化・専門化・変化のスピードが速いポスト工業社会においては、ジェネラリスト(何でも屋の素人集団)は通用しません。
NTTグループは、「専門性を軸とした人事給与制度への見直し」を発表しました。
日本もジェネラリストからスペシャリストの時代へ変わらざるを得ない時代になってきました。
引用:専門性を軸とした人事給与制度への見直しについて | ニュースリリース | NTT
実は、「ジェネラリスト」は日本特有の概念であり、ジェネラリストをスペシャリストと明確に区分するのは日本だけです
ゼネラリストとスペシャリストは役割が違うので両方必要だという日系企業の考え方は、社員を丸抱えしてきた古い時代の会社都合の発想です。
欧米の一般的な管理職は、専門性を高めつつ、マネジメントのスキルも磨いたスペシャリスト・マネジャーです。
大企業に就職したら覚悟しておくことは?
大企業(JTC)に就職しても、これから先は年金が給付されるまでその会社で働き続けられる保証はありません。
大企業(JTC)に居続けることがリスクになる可能性もありますが、途中で転職は実質不可能です。
なぜなら、大企業(JTC)では成長できず、市場価値がある(他社でも通用する)スキルが身に付かないため転職は厳しいからです。
参考:大企業では転職スキルが身に付かないたった一つの理由と対処法とは?
まとめ
✔大企業神話とは?
・大企業(JTC)に就職すれば、終身雇用と年功序列で幸せなサラリーマン人生が保証され、さらに恵まれた退職金と年金で定年後も安泰という考え方
✔始まった大企業神話崩壊の実態です。
①年功序列の限界
②終始雇用の限界
③新卒一括採用の限界
④ジェネラリスト時代の限界
✔大企業(JTC)に就職したら覚悟しておくことは?
・大企業(JTC)に就職しても、これから先は年金が給付されるまでその会社で働き続けられる保証は無い
・大企業(JTC)に居続けることがリスクになる可能性もあるが、途中で転職は実質不可能