この記事は、経営コンサルタントとして50社を超える経営に関与し、300を超える現場を訪ね歩いてきた経営学者 遠藤功氏の記事「それでも本当に“経営者”と言えるのか?」日本の“現場”を殺した「4なし経営」の重すぎる罰(東洋経済オンライン)から「4なし経営」を引用し、日系大企業(JTC※)の経営者が「4なし経営」に陥った理由と会社の末路を筆者が自身の経験に基づいて解説します。
※JTCとはJapanese Traditional Companyの略で、古い体質の日本の伝統的な大企業を揶揄するネットスラング
いま日本は、変化を嫌う硬直的な大企業(JTC)に留まることが、かえって危険な時代になりつつあります。
この記事を読んで、あなたの今後のサラリーマン人生に対する価値観を再確認するきっかにしてください。
②日系企業(JTC)の経営者が「4なし経営」に陥った理由とは?
③「4なし経営」企業の末路とは?
大企業(JTC)での長年の勤務経験がある筆者が、大企業JTCの経営者が「4なし経営」に陥った理由と会社の末路について解説します。
<自己紹介>
筆者本人(1960年生 2023.11撮影)
筋トレ歴17年 ボクシング歴11年
<筆者略歴>
1984年 東京大学工学部建築学科卒業後、ゼネコンに入社
1988年 インフラ企業に転職
2018年 子会社の不動産会社に転籍
2023年 退職
目次
「4なし経営」とは?
経営学者 渡辺功氏によると日本企業の経営者は、次の「4なし経営」を長年にわたってて続けることにより、日本経済を支えてきた「現場力」を失わせたと指摘しています。
引用:日本の"現場"を殺した「4なし経営」の重すぎる罰 「賃上げも人員補充もなし…」経営の責任は? | 東洋経済オンライン (toyokeizai.net)
スマホでは読みずらいので、以下に再掲します。
「4なし経営」とは?
①投資なし:設備投資や人材育成投資の抑制
②人員増なし:非正社員に頼り、正社員増を抑制
③賃上げなし:利益を配当や内部留保に回し、賃上げを抑制
④値上げなし:価値に見合う価格改定を不実行
なぜ長年にわたって日系大企業(JTC)の経営者が、このような「4なし経営」を行ってきたのか、その根本理由について、筆者の見解を以下で解説します。
日系企業(JTC)の経営者が「4なし経営」に陥った理由とは?
「4なし経営」を指摘した経営学者 渡辺功氏は、「それでも本当に”経営者”と言えるのか?」と日本の経営者を糾弾しています。
筆者も全く同感です。
では、なぜ彼らが「4なし経営」に陥ったのでしょうか?
答えは簡単なことです。
大企業(JTC)の経営者と言われている人たちは、「すごろく上がりのサラリーマン社長」であり、実のところ「経営のスペシャリスト」ではないからです。
彼らが経営者に昇りつめることができたのは、経営的な手腕によるものではなく、学歴などによって選別されたエリート(選別主義)の間で繰り広げられる出世競争(出世すごろく)の結果です。
出世しか頭にない彼らは、「出世すごろく」で運よく「上がり」に到達してしまえば、あとは「任期中、大過なく過ごす」ことしか考えません。
起業家出身者や外部から招へいされた経営のスペシャリストと違って、彼らはリスクを取って企業の成長を目指すことはなく、現状維持に終始します。
そういう意味では、大企業(JTC)の経営者は決して「経営者」と呼べる人材ではないのです。
しいて言えば、「自己保身に取りつかれた単なる管理者」なのです。
そういう目で、もう一度以下の「4なし経営」の内容を見てください。
「4なし経営」とは?
①投資なし:設備投資や人材育成投資の抑制
②人員増なし:非正社員に頼り、正社員増を抑制
③賃上げなし:利益を配当や内部留保に回し、賃上げを抑制
④値上げなし:価値に見合う価格改定を不実行
いかがでしょうか?
どれも「任期中、大過なく過ごす」、すなわち「リスクを取らない現状維持」と相性がいいものばかりではないでしょうか?
この観点から「4なし経営」を補足すると以下になります。
任期中は、
①将来のために本当は必要な投資を抑制して、出来るだけキャッシュアウトを減らし、
②非正社員を増やして、人件費の変動費化と削減を進め、
③その結果生まれたキャッシュは、賃上げより、株主対策(配当)や経営のリスクヘッジ(内部留保)に回す
④一方で、現場が創造した商品価値に見合う値上げは、売り上げ減少リスクを回避するため実行しない
このように大企業(JTC)の経営者は、経営手腕によってではなく、姑息な管理によって任期中の好決算や高配当など株主対策、マスコミ対策に余念がありません。
そして、そのシワ寄せは全て社員が被ることになります。
世界的にみて低い日本の賃金水準と積みあがる内部留保
【OECD加盟国35カ国の平均年収ランキング】凡例:日本赤OECD平均青
賃金を抑制し、内部留保を増やすことで、どんなに怠慢な経営であっても、容易には現在の体制が崩壊しないような構造が築かれています(下図参照)。
【内部留保と粗利に占める人件費比率】凡例:内部留保青人件費率ピンク
「4なし経営」企業の末路とは?
下の表は、世界時価総額ランキング TOP50の1989年と2023年の比較です。
【世界時価総額ランキング TOP50 1989年と2023年の比較】
1989年TOP50に日本企業は32社。
30年ほど前は、日本企業が50位以内の6割以上を占めており、日本企業が世界の経済をけん引していたと言っても過言ではありませんでした。
32社の中には、合併などで消えた企業や、株式が上場廃止され、実質的には消えた東芝の名前もあります(2024年2月現在)。
2023年は日本企業0社
時価総額ランキング50位以内に日本企業は有りません(2024年2月現在)。
経営者が「任期中、大過なく過ごす」間に、世界から置いてけぼりを食らった日系大企業(JTC)の成れの果てです。
これは、時代遅れの経営姿勢をこのままパラダイムシフトできなければ、消えてゆく運命であることを物語っています。
そして以下の理由により、消えゆく速度は増していきます。
有能な社員の転職による社外流出
大企業(JTC)の経営者のこのような稚拙な経営のシワ寄せを被ってきた社員が我慢できたのも、社員を奴隷化して会社に縛り付けておくための日本独自の雇用システム(終身雇用と年功序列)がなんとか機能していたからです。
しかし、今やその社員奴隷化システム(終身雇用と年功序列)も、リストラや早期退職制度、そして役職定年制度の導入などによって崩壊が始まっています。
この流れを反映して、昨今の日本の転職市場は活況を呈しています。
今や変革を嫌う大企業(JTC)に留まることが、かえって危険な時代になりつつあるのです。
「4なし経営」企業の末路とは、これまで無能な経営者をなんとか支えてきた有能な社員に見限られて転職されて、消えてゆく運命をたどることです。
ここ30年の名目GDPが示す日本の経営者の無能ぶり
日本経済は、下のグラフが示す通り停滞しており、名目GDPはまったく増えていません(増えるどころか、2012年に始まったアベノミクス以降は名目GDPのマイナス基調が続いています)。
無能経営者が「任期中、大過なく過ごす」ので、しょうがありませんが・・・。
まとめ
✔「4なし経営」とは?
①投資なし:設備投資や人材育成投資の抑制
②人員増なし:非正社員に頼り、正社員増を抑制
③賃上げなし:利益を配当や内部留保に回し、賃上げを抑制
④値上げなし:価値に見合う価格改定を不実行
✔日系企業(JTC)の経営者が「4なし経営」に陥った理由とは?
大企業(JTC)の経営者と言われている人たちは、「すごろく上がりのサラリーマン社長」であり、実のところ「経営のスペシャリスト」ではない
⇒ 出世すごろく(出世競争)で上がってしまえば、「任期中、大過なく過ごす」だけ
⇒ 自己保身に取りつかれた単なる管理者である彼らが行う「経営」とは、以下の姑息な管理業務(=4なし経営)
①将来のために本当は必要な投資を抑制して、出来るだけキャッシュアウトを減らし、
②非正社員を増やして、人件費の変動費化と削減を進め、
③その結果生まれたキャッシュは、賃上げより、株主対策(配当)や経営のリスクヘッジ(内部留保)に回す
④一方で、現場が創造した商品価値に見合う値上げは、売り上げ減少リスクを回避するため実行しない
✔「4なし経営」企業の末路とは?
これまで無能な経営者をなんとか支えてきた有能な社員に見限られて転職されて、消えてゆく運命
これからは転職の時代、すなわちスペシャリストの時代になります。
社員や現場を大切にしなければ、有能な社員はどんどん離れていくことなります。