作家 橘玲氏は、会社を「終身雇用劇場」という看板を掲げて「年功序列とともに」という長尺の映画を上映している映画館に例えました。
上映されている映画は、とてもつまらないのにいつも大入り満員です。
なぜなら、みんなの目的は映画を見ることではなく映画館にいることだからです。
そして、この映画館は少しずつ縮み始めたので出口から少しずつ観客が無理やり追い出されています。
以上は、橘玲氏が著書『貧乏はお金持ち』(第1刷発行 2009年6月5日)のなかで語っている、非常に的(まと)を射た例え話ですが、その後すこしずつ状況に変化が現れました。
上映されている映画がいつの間にか「年功序列の崩壊とともに」という悲劇映画に変わり、特等席に座っていた昔からのなじみの客が突然映画館から大量に追い出され始めました。
「終身雇用劇場」という映画館の名前ももうずいぶん古いので変えたいのですが、適当な名前が思い浮かばないそうです。
この記事を読めば、退屈な「終身雇用劇場」に毎日通わなくてもよくなるヒントが分かります。
※JTCとはJapanese Traditional Companyの略で、古い体質の日本の伝統的な大企業を揶揄するネットスラング
②なぜ日本人は自分の会社が嫌いなのにしがみついているのか?
③嫌いな会社にしがみついていることによるリスクと対策とは?
自分の会社が嫌いなのにしがみついてしまった筆者が、日本人は自分の会社が嫌いなのにしがみつく【理由とリスクと対策】について解説します。
<自己紹介>
筆者本人(1960年生 2023.11撮影)
筋トレ歴17年 ボクシング歴11年
<筆者略歴>
1984年 東京大学工学部建築学科卒業後、ゼネコンに入社
1988年 インフラ企業に転職
2018年 子会社の不動産会社に転籍
2023年 退職
目次
「日本人はみんな自分の会社が嫌い」という調査データ
「日本のサラリーマンはみんな自分の会社が嫌い」であることは、エンゲージしている社員(仕事や会社への熱意、貢献意欲などが高い社員)の比率の低さが示しています。
アメリカに本社を置く調査会社「ギャラップ社」による世界各国の従業員エンゲージメント調査(2023年度版)によると、日本の「エンゲージしている社員」は5%にとどまっており、145カ国中で4年連続 最下位でした。
一方、世界全体の従業員エンゲージメントは、2022年には23%となっています(下のグラフ参照)。
引用:なぜ日本人は「仕事への熱意」が145カ国で最下位なのか| PRESIDENT Online
なぜ日本人は自分の会社が嫌いなのにしがみついているのか?
橘玲氏は著書『(日本人)かっこにほんじん』の中で次のように、その理由を説明しています。
八〇年代に一世を風靡した「文明としてのイエ社会」論では、日本社会の集団原理は「超血縁」で、(イエを養子に継がせるように)加入においては選択が可能(契約的)だが、いったん加入した後は退出が許されず(血縁的)、ひとびとは無限定かつ無期限に集団に尽くすことになるとされた。
この結合原理が地縁や血縁を超えた「社縁」で、年功序列と終身雇用制によってそれを現実化したのが「会社」だ。
日本では近代的な資本主義の代わりに「イエ社会主義」が生まれ、仕事ではなく会社がアイデンティティになっていく。
(中略)
しかし、地縁や血縁を放棄してしまった日本人は、イエとしての会社がなくなってしまうと、もはや所属すべき共同体はどこにもなくなってしまう。
これは社会的動物としてのヒトにとって、とてつもない恐怖だ。
(中略)
イエとしての会社は、あらゆる”縁”を捨ててしまった日本の男たちの最後の寄る辺なのだ。
確かに自治会の廃止や不要論、また核家族化は、橘玲氏の主張(地縁や血縁を放棄してしまった日本人)を裏付ける現象と言えそうです。
そして、地縁や血縁を超えた「社縁」にしがみついて自分が所属する会社に尽くしているうちに、市場価値のあるスキルをなにも持たない人材になり果てることになります。
先ず労働力を確保してから会社都合で仕事を割り当てるメンバーシップ型雇用(新卒一括採用、年功序列、終身雇用制)では、当然、専門スキルが身に付かない※からです。
※メンバーシップ型雇用では、個人のキャリアプランは無視されます。例えば営業でキャリアを積んでいた人がバックオフィスに異動させられたり、その逆もあります。そのため、日本のサラリーマンはほとんどが「ジェネラリスト」という名の「何でも屋の素人」です。さらに大企業の場合は、業者に丸投げして問題解決をはかる(お金で解決する)ため、専門スキルが社員に身に付かない傾向があります。
年功序列と終身雇用制が機能している間は、これは問題として顕在化しませんでした。
ところが、これからは年功序列と終身雇用制に呑気にあぐらをかけない、40代以上のホワイトカラー(=給与が高いわりに生産性の低いサラリーマン)にとっては大問題です。
リストラで追い出されれば、転職も難しく路頭に迷うことになるからです。
転職先では問題解決能力を求められますが、専門スキルがなければ中小企業への転職も困難※※です。
※※大企業出身者は、中小企業の経営者から敬遠されます。何でも外部の専門家に外注する(前述)大企業のやり方が染みついている人材では、資金力が無くマルチタスクが常識である中小企業で全く役立たないからです。逆に言うと、中小企業で重宝されるような人材は、大企業でも貴重なのでリストラの対象になりません。
日本のサラリーマンは自分の会社が嫌いなのにしがみついている理由は、以下です。
・市場価値のある専門スキルがないため、他の会社(共同体としてのイエ)に移れないから
嫌いな会社にしがみついていることによるリスクと対策とは?
リスク
嫌いな会社にしがみついていることによるリスクは、前述しましたがもう一度整理します。
・給与が高いわりに生産性が低い40代以上のホワイトカラーのリストラが増える
・リストラされても市場価値のある専門スキルがないため転職できない
最近は黒字でもリストラ(希望退職の募集)が増えてきた背景には、アクティビスト株主(物言う株主)の存在があります。
日本企業は伝統的に株式の持ち合いによって安定株主を確保していましたが、1997年の金融ビッグバン以降、持ち合い株の開示ルール厳格化や海外投資家からの批判などにより徐々に規制が強され、完全に禁止されることはありませんでしたが、事実上の禁止状態に近づきました。
これにより、日本企業の株式相互保有の慣行は大幅に少し、アクティビストの存在感が増した結果、リストラの本来の目的である会社の構造改革が行われるようになりました。
今後は生成AIの普及も相まって、構造改革という名の人件費削減は益々増えることになります。
ターゲットは、 給与の割に生産性の低い40代以上のホワイトカラーです。
対策
対策は、「会社」ではなく「職能※」に依存したキャリアを積んで、40歳までに市場価値のある専門スキルを身に付けることです。
※職能とは、特定の職務や仕事を遂行するために必要な能力やスキル、知識のことを指します。例えば、ソフトウェア開発職能(プログラミングスキル)、会計職能(経理知識)、営業職能(プレゼンテーション能力)など
そのためにはキャリアプランを自ら立てて、転職(正確には転社)により専門スキルを磨きます(関連記事:転職を日米で比較|キャリアプランでゴールを目指す働き方とは?)。
また、求人サービスに登録して自身の市場価値(仮に今転職したら年収はどのくらいか)を常に把握しておくことが重要です。
なお、会社にしがみついていてもリスクの無い人はごく一部※※です。
※※日本企業、特に大企業(JTC)は、学歴、性別などによる身分社会です。会社にしがみついていてもリスクの無い幹部候補は、場合によっては入社早々に決定します(選別主義)。幹部候補は、役員と同クラスの高学歴者になるのが通例ですので、大企業(JTC)の場合は偏差値70以上の大学卒業生です。
まとめ
✔「日本人はみんな自分の会社が嫌い」という調査データです。
・米ギャラップ社による世界各国の従業員エンゲージメント調査(2023年度版)によると、日本の「仕事や会社への熱意、貢献意欲などが高い社員」は5%にとどまっており、145カ国中で4年連続 最下位
✔なぜ日本人は自分の会社が嫌いなのにしがみついているのか?
・市場価値のある専門スキルがないため、他の会社(共同体としてのイエ)に移れないから
✔嫌いな会社にしがみついていることによるリスクと対策とは?
【リスク】
・給与が高いわりに生産性が低い40代以上のホワイトカラーのリストラが増える
・リストラされても市場価値のある専門スキルがないため転職できない
【対策】
・「会社」ではなく「職能」に依存したキャリアを積んで、40歳までに市場価値のある専門スキルを身に付けること
・また、求人サービスに登録して自身の市場価値(仮に今転職したら年収はどのくらいか)を常に把握しておくことが重要