2024年のデータによると、日本人の平均寿命は84.5歳で、世界1位です。
にもかかわらず、日本人の幸福度は高齢になるほど低くなります(下のグラフ参照)。
引用:内閣府『平成20年版国民生活白書』「日本人の幸福度に関する分析」
また、こんなデータもあります。
オムロンヘルスケア㈱の『人生100年時代におけるシニアの健康に関する意識と実態調査』によると、約9割(86.5%)もの人が、老後への不安を抱えています。
その不安の種類は、1位が「お金」、2位以降は「自身の健康」に関するものが並びます(下のグラフ参照)。
また、不安の1位である「お金」の内容を見てみると、医療費が5割強(52.6%)で、2人に一人は医療費に不安を抱えているというのが実態です(下のグラフ参照)。
以上の結果から、要するに、老後の不安とは「健康への不安」であると言えます。
こう言った背景から、多くの定年シニアが、現役時代の不摂生を改め、健康管理に積極的に取り組んでいます。
しかし、その健康管理がかえってストレスになっていないでしょうか?
嫌な会社勤めも無くなって、せっかくストレスフリーになったのに、こんどは健康管理がストレスになってしまっては元も子もありません。
ストレスは「万病の元」です。
日本人は寿命が長い一方で、幸福度が高齢になるほど低くなるのは、「健康への不安と過度な健康管理によるストレス」が原因の一つと言えます。
この記事を読んで、健康管理に対する認識を見直すきっかけにしてください。
②健康管理によるストレスとは?
③残る人生をストレス無く生きるには?
10年前に人間ドックを止めた筆者が、定年後の健康管理がストレスに!残る人生をストレス無く生きるには?について解説します。
<自己紹介>
筆者本人(1960年生 2023.11撮影)
筋トレ歴17年 ボクシング歴11年
<筆者略歴>
1984年 東京大学工学部建築学科卒業後、ゼネコンに入社
1988年 インフラ企業に転職
2018年 子会社の不動産会社に転籍
2023年 退職
目次
残る人生はどのくらいあるのか?
2024年5月21日、WHOが発表した2024年版の世界保健統計によると、日本人の平均寿命は、女性が87.2歳で世界1位、男性は81.7歳で世界2位です(引用:世界の平均寿命ランキング・国別順位(2024年版))。
ところで、かつてイギリスの首相であったベンジャミン・ディズレーリは、「嘘には3種類ある。嘘、真っ赤な嘘、そして統計だ」と言ったそうです。
そして、統計の最も基本となるのが平均値です。
つまり、平均値はしばしば嘘をつくのです。
平均には「人並み」や「一般的」というイメージが付きまといますが、それは必ずしも正しいとは限りません。
単なる計算値でしかない平均寿命まで、あなたが生きられる保証は全くありません。
下のグラフ(引用:PPT - 移植医療:日本と世界の現況 )は、2010年度の日本人の男女別生存曲線で、縦軸は生存率、横軸は年齢です。
生存曲線とは、同種の生物が時間の経過とともにどれだけ生き残っているかをグラフで表したもので、個体群の生存率を視覚的に示し、時間の経過に伴う生存数の変化を理解するために用いられます。
このグラフを見ると、日本人は男女とも70歳を過ぎると急激に死んでいくことが分かります。
男性に注目してもう少し詳しくみると、70歳までに約20%が、80歳までに約50%が、そして90歳までに約90%が死ぬことが分かります。
なんとなく平均寿命まで生きるだろうと考えがちですが、このように確率で把握するとそれほどでもないことが分かりますし、80歳までに2人に一人は死ぬのが現実です。
下のグラフは、日本人男性の生存曲線が時代ごとにどう変化したかを示すものです。
1900年前後は、約20パーセントが生まれても直ぐに死んでいましたが、1955年ごろになると乳幼児期の死亡がほとんどなくなります。
その後1970年ごろになると、50歳を過ぎるまでほとんど死亡することがなくなり、50歳から70歳にかけて徐々に死亡者が増え、70歳を超えると急激に死亡が増えるという、現在とほぼ変わらないパターンとなっています。
そして、ここ30年は急激な死亡増加の時期がわずかずつ右へ移動しつつあることが分かります。
このグラフから分かることは、遠い未来の人は別として、少なくても今生きている人は、どんなに健康管理に励んでも、死をせいぜい数年遅らせるだけだということです。
しかも、その数年は、ベッドの中かもしれません。
健康管理によるストレスとは?
①処方され続ける何種ものクスリ
治療には、根本療法と対処療法があります。
根本療法とは、病気や症状の原因を直接治す治療法です。
一方、対処療法は症状を一時的に和らげるだけで、病気の原因そのものは治すことができない治療法です。
薬を使う治療の多くは、この対症療法に分類されます。
例えば、血圧やコレステロールなどの数値を下げる薬の服用は対処療法にあたります。
したがって、服用しても病気や症状の原因が直接治るわけではないので、こういった薬は服用し続ける必要があります。
老化が進めば、適性範囲を外れる数値も増えるので、服用しなければならない薬も次第に増えていきます。
東京都健康長寿医療センター研究所が100万人のレセプトデータから解析したデータによると、75歳以上の高齢者の64%が、5種類以上の薬を処方されています。
何種類もの薬が処方されて煩わしかったり、多くの薬を毎日飲んでいるのに改善しなかったり、改善した実感がないのに副作用に苦しんだりでは、ストレスは増す一方です。
②調子は悪くないのに何故か良くない人間ドックの結果
日本の人間ドックの判定基準は他の国々と比較して厳しいという意見が、専門家からも出されています。
判定基準は健診団体連絡協議会※によって決定されていますが、具体的な設定根拠は分かりません。
※検診団体連絡協議会(健団協)は、2017年に設立された組織で、日本人間ドック・予防医療学会、全日本病院協会、日本総合健診医学会、日本病院会の4団体が参加しています。
基準を厳しくして病人を増やした方が儲かるのは、医者と製薬会社です。
体の調子は悪くないのに、BやC判定がついてしまう人間ドックの判定基準に対しては、こんな風に勘繰りたくなるのも当然です。
恣意的に決められた判定基準によって、病人になったりならなかったりでは、たまったものではありません。
健診のたびに何かの数値がひっかかり経過観察の判定を受けて、再検査や薬の服用を医師に指示されます。
体の調子が悪くないのに、これではかえって不安になりストレスも溜まります。
③測るたびに一喜一憂する血圧測定
毎日の血圧測定は手軽にできる反面、一喜一憂でストレスの元にもなりやすい健康管理です。
日本高血圧学会によると、治療目標は年齢に関係なく一律130/80mmHg未満と設定されいます。
加齢により血管の弾力性が失われることで血圧は上昇するので、治療目標が年齢に関係なく設定されていることに対して、批判的な専門家もいます。
また、降圧剤の使用に関しては、いくつかのリスクが考えられます。
例えば、血圧が過度に低下すると、脳への血流が減少し、認知機能に影響を与える可能性があります。
さらには、血圧が低すぎると血栓のリスクも増加することがあります。
こんなことも心配しながら、毎朝の血圧測定を日課にすると、数値が上がったり下がったりするたびに一日中不安を感じ、ストレスから逃れることができません。
残る人生をストレス無く生きるには?
厚生労働省「国民生活基礎調査」によると、20歳以上で過去1年間に健診や人間ドックを受けたことがある人は、男性が73.1%、女性が65.7%となっています。
男女ともに「50~59歳」が最も多く、男性で81.6%、女性で73.4%となっています(下のグラフ参照)。
【健診や人間ドックを受けた人の割合(20歳以上)】
引用:健診や人間ドックを受けている人はどれくらい?|公益財団法人 生命保険文化センター
まだ先が長い若年層や家族を養わなければならない現役世代にとって、健診や人間ドックは必要かもしれませんが、定年シニアにとっては残された人生を考えた場合、どれほどの意味があるのでしょうか?
ところで、みなさんは『フィンランド症候群』をご存じですか?
健康管理が老化に伴う病気や死を避けるどころか、かえって死期を早めるという報告です。
以下、健康管理しすぎは逆効果? 医師たちが語る“フィンランド症候群”の根拠からの引用をご覧ください。
フィンランド保険局が40歳から45歳までの管理職約600人を選んで定期検診・栄養管理・運動指導・酒タバコ塩分の抑制を義務づける一方で、同年代同職種600人の別グループを選定し定期的な健康調査票への記入だけを依頼したうえで、あとは自由になさってくださいとしました。
1974年から1989年まで続けられた追跡調査の結果、15年後に出た答えは、「後者の健康管理されなかったグループの方が健康で死亡率も低い 」でした。
この事実のことを当時のわが国のマスメディアが『フィンランド症候群』と呼んだのです。
健診や人間ドックに関わる利害関係者である医療機関などは、この『フィンランド症候群』に対して批判的ですが、一方で健診や人間ドッグが長生きにつながるというエビデンスが存在しないことも事実です。
日本以外では、この『フィンランド症候群』を裏付けるかのように、健診や人間ドックを熱心に受けていません。
欧米では「人間ドック」という概念は一般的ではなく、専用の施設も存在しません。
アメリカでは、簡単な定期検診は行われているものの、人間ドックのような精密検査は非常に高額であり、主に富裕層が受診しています。
ドイツなどヨーロッパでも、予防的な検査は個々の開業医で行われることが多く、総合的な検査を受けられる場所はほとんどありません。
どうも日本人だけが、熱心に健診や人間ドックを受け、その結果、健康不安に陥り幸福度の低い老後を送っているようです。
健診や人間ドックで医師から指導を受けた健康管理(何種類もの薬の服用や定期的な再検査、日々の血圧測定など)によって、かえって健康不安が増して医療費負担が増えるだけでは、無意味です。
変えることができないこと(老化に伴う数値の悪化)に抵抗して、一喜一憂する毎日は、必ずしも穏やかな定年後の過ごし方とは言えません。
残る人生をストレス無く生きるには、身体の調子が悪くも無いのに健診や人間ドックを受けることを見直す必要があります。
「地獄への道は善意に敷き詰められている※」ので要注意です。
※世の中を良くしようとか、弱者を助けようという善意が逆に事態を悪化させ、「地獄」のような悲惨な結果をもたらすという諺(ことわざ)
筆者が読んで、人間ドックと病院や薬が嫌になった本のご紹介
順不同
・和田秀樹、近藤誠著『やってはいけない健康診断』早期発見・早期治療の「罠」
・冨家孝著『不要なクスリ 無用な手術』医療費の8割は無駄である
まとめ
✔残る人生はどのくらいあるのか?
・日本人は男女とも70歳を過ぎると急激に死んでいく
・男性では、70歳までに約20%が、80歳までに約50%が、そして90歳までに約90%が死ぬ
・単なる計算値でしかない平均寿命まで生きられる保証は全く無い
✔健康管理によるストレスとは?
①何種類もの薬が処方されて煩わしかったり、多くの薬を毎日飲んでいるのに改善しなかったり、改善した実感がないのに副作用に苦しんだりするストレス
②体の調子が悪くないのに、健診のたびに何かの数値がひっかかり経過観察の判定を受けて、再検査や薬の服用を医師に指示され、かえって不安になるストレス
③毎朝の血圧測定を日課にすると、数値が上がったり下がったりするたびに一日中不安を感じるストレス
✔残る人生をストレス無く生きるには?
身体の調子が悪くも無いのに健診や人間ドックを受けることを見直す