日本企業の経営者の能力の低さは、国際経営開発研究所「世界競争力年鑑」の調査データからも分かります。
以下、三菱総研の記事から引用します。
ビジネス効率性分野の「経営プラクティス」などの小分類項目の順位は低位で固定化しており、改善傾向がみられない。
特に企業の意思決定の迅速さや機会と脅威への対応力、起業家精神などからなる「経営プラクティス」は64カ国・地域中62位であり、日本の最大の課題である。
ユニクロの柳井正氏は、2024年8月26日に放送された日本テレビの報道番組で「日本の経営者が変革を恐れ、現状維持に固執している」と述べ、さらに「日本人は滅びるのではないか」と発言して大きな話題になりました。
彼は、日本の経営者が国際競争力を高めるために、より積極的に行動する必要があると強調していますが、この調査データを見る限り、確かにその通りであることが分かります。
そして、この経営者の能力不足が一因となり、日本の凋落ぶり(世界競争力、時価総額、名目GDP)は勢いを弱めることもなく、「失われた30年」の延長は確実な状況となっています。
この記事では、日本の経営者はなぜこんなにダメなのかその理由を明らかにします。
長年のJTC勤務でダメな経営者を見てきた筆者が、失われた40年を招く日本の経営者がこんなにダメな理由を解説します。
<自己紹介>
筆者本人(1960年生)
筋トレ歴16年 ボクシング歴10年
<筆者略歴>
1984年 東京大学工学部建築学科卒業後、ゼネコンに入社
1988年 インフラ企業に転職
2018年 子会社の不動産会社に転籍
2023年 退職
目次
失われた40年を招く日本の経営者はなぜこんなにダメなのか?
失われた40年を招く日本の経営者がこんなにダメな理由は、次の通りです。
・日本企業の経営者は、組織(共同体)に評価されて経営者という肩書を手に入れただけで、市場に評価されて経営者になったわけではないから
以下、補足します。
雇用形態の違いによる企業組織の違い~日本と欧米
メンバーシップ型雇用※1 の日本企業では、原則終身雇用であるため転職や中途採用はあまり行われません。
※1 メンバーシップ型雇用は日本固有の雇用形態で、まず新卒一括採用で労働力をまとめて確保し、その後に会社都合で仕事を割り当てます。この雇用形態は、長期安定的な労働力確保が最も重要な経営課題であった高度経済成長期に広がったもので、今ではとっくに時代に合わなくなっています。最大の特徴である終身雇用と年功序列は崩壊しつつあります。
その結果、社員の固定化・同質化・一体化が進んだ日本企業は、「共同体」の特徴を多く持つ組織になりました(下表参照)。
一方、ジョブ型雇用※2 の欧米企業では、転職(転社)は当たり前であり、異なるバックグラウンドやスキルセットを持つ人々が同じ職場で働くことがよくあります。
※2 ジョブ型雇用では、ある特定の職務に対して、その職務に適したスキルや経験を持つ人材を雇用します。
そのため欧米企業は、企業が本来持つべき「機能体」の特徴を多く持っています(下表参照)。
引用:堺屋太一著『組織の盛衰』
「共同体」の日本企業では、社員同士の信頼関係や絆が重視され、評価も企業内での人間関係が深く影響します。
一方、「機能体」の欧米企業では、個人の成果やパフォーマンスが評価の対象となり、個人のキャリア成長に重きが置かれます。
企業組織の違いによる企業文化の違い~日本と欧米
「共同体」と「機能体」の違いが、以下の企業文化の違いを生みます。
①組織の構造と意思決定のスピード
日本企業: 階層的な組織構造が一般的で、意思決定は慎重かつ協議を重ねた上で行われるため遅い。チーム全体の合意や協力が重要視されるのは、責任の分散という側面を持つ。
欧米企業: フラットな組織構造が多く、意思決定は迅速に行われることが多い。個々の社員が意見を述べやすく、自律的な働き方が重視される。
②社員の関係性
日本企業: 社員同士の絆や信頼関係が重視され、仕事以外の場でも関わり合うことが多い。チームワークと協力が強制され、同調圧力も強い。
欧米企業: プロフェッショナルな関係性が重視され、仕事とプライベートの区別が明確。個人の独立性が尊重される。
③企業の価値観とビジョン
日本企業: リスクを嫌うため、従来の方法や前例にこだわる。企業の価値観として、信頼性や誠実さが強調されることが多いが、トップの保身のためのコンプライアンスになりがちで不正隠ぺいなど不祥事も多い。企業のミッションやビジョンが明確に打ち出されることは少ない。
欧米企業: イノベーションやリスクテイクを重視し、新しいアイデアや技術を積極的に取り入れる文化がある。企業のミッションやビジョンが明確に打ち出されることが多い。
日本企業の経営者とは?
日本企業と欧米企業の雇用形態の違いによる企業組織の違い、企業組織の違いによる企業文化の違いを見てきました。
これらを反映した経営者の能力も当然違います。
日本企業の経営者は、居心地追求組織「共同体」に評価されて経営者という立場に昇りつめた人です。
企業のミッションやビジョンを明確に打ち出し、リスクをとって市場に向き合い、市場の評価を受け、経営者になった人ではありません。
かつての工業社会時代には、松下幸之助(パナソニック)、稲盛和夫(京セラ)、本田宗一郎(ホンダ)、盛田昭夫(ソニー)、鈴木修(スズキ)、永森重信(日本電産)など世界市場から評価された経営者が何人かいましたが、ポスト工業社会※3になってからはほとんどいません。
※3 ポスト工業社会とは、失われた30年の間に、需要の飽和とニーズの多様化・専門化が進み、その変化も加速した社会です。具体的には、2010年代以降のGoogle、Apple、Facebook(現Meta)、Amazonなど巨大IT企業が世界の経済をけん引してきた時代が特にその象徴的な時代です。これに対し、工業社会とは、人口増による内需でモノをつくれば簡単に売れた少品種大量生産の時代で、日本では概ね1970年代以前の社会を指します。
参考:【就活】大企業(JTC)すごろく上がりのサラリーマン社長の弊害とは?
まとめ
失われた40年を招く日本の経営者はなぜこんなにダメなのか?
・日本企業の経営者は、組織(共同体)に評価されて経営者という肩書を手に入れただけで、市場に評価されて経営者になったわけではないから
大企業(JTC※4)に無能な上司が多いのも同じ理由です。
※4 JTCとはJapanese Traditional Companyの略で、古い体質の日本の伝統的な大企業を揶揄するネットスラング
参考:大企業(JTC)には無能な上司がなぜ多いのか?【4つの根深い原因】