筆者は、たまたま読んだ内田樹著『コモンの再生』と斎藤幸平他編『コモンの「自治」論』に触発されて自治会長を引き受けました。
内田樹氏が指摘するように、「自治」には個々人の「持ち出し」が必要です。
「持ち出し」=「損」という考え方では、「自治」は成立しません。
自治活動は、定年後の暇つぶしとちょっとした「社会貢献」になります。
人生経験と時間がたっぷりある定年シニアは、損得勘定を捨てて自治会長に一度はなってみるのも「損」はないと思います。
「損して得取れ」ということわざもあります。
この記事を読めば、自治会長のリアルが分かります。
②自治会長の選出方法は?
③自治会長のリアルな仕事とは?
退職して自治会長になった筆者が、自治会長の仕事や選出方法について解説します。
<筆者略歴>
1984年 東京大学工学部建築学科卒業後、ゼネコンに入社
1988年 インフラ企業に転職
2018年 子会社の不動産会社に転籍
2023年 退職
目次
自治会長とは?
自治会長とは、特定の地域の住民が自らの意思で地域の運営や管理を行うために組織された地縁に基づく団体である自治会※1のまとめ役です。
※1 「自治会」は「町内会」とも呼ばれています。2003年に総務省が行った調査では、「自治会」という名称が42.8 %でもっとも多く、次いで「町内会」が24.6 %となっています。
小学校区内の自治会を全て集めた上位組織が自治会連合会で、その下に支部を置くのが一般的です(下図参照)。
自治会の規模は、一桁の世帯数から100世帯に近い自治会までさまざまです。
世帯数が多い自治会では、いくつかの班に分割して管理運営しています。
自治会連合会会長や支部長は、自治会長のなかから選ばれるが一般的です。
自治会長の選出方法は?
自治会長は、班の輪番制の場合が多く、任期は1年か2年です。
なんとかして自治会長にならないよう逃げ回るのが普通ですので、自治会長になりたい方は自薦ですぐ自治会長になれます。
自治会長を含む自治会の役員(副会長、会計、会計監査など)の選出は、会員の話し合いで全員一致が原則※2です。
※2 自治会は民主制で運営されます。しかし、日本人は民主制に慣れていません。民主制を国民の力で勝ち取った歴史をもたない日本人は常に国家権力の言いなりですし、学校でも会社でもトップダウンの独裁制に慣れきっています。だから自治会の話し合いは、本当にめんどくさく感じます。
しかし、やりたい人などめったにいませんので、なかなか決まりません。
では、どうするか?
筆者の自治会の事例を以下解説します。
対策としては、持ち回り制で順番が回ってきた班の班長が、以下の2点を考慮した独断と偏見で役員候補案を作成します。
①80歳未満で年齢が高い人が優先(80歳以上は原則免除)
②役員経験がない人が優先
筆者の自治会では、この原案にもとづいて話し合いで決着していますが、決着しない場合は以下の方法が他の自治会では採用されています。
①会員による投票
②くじ引きかジャンケン
また、以前住んでいた地域の自治会では「自治会長未経験者で年齢が一番高い人」というルールで自治会長を決めていました。
自治会長のリアルな仕事とは?
①各種会合への出席
自治会連合会 定期総会(年2回)、支部総会(年2回)など
②自治会 総会の開催
定期総会(年1回)と臨時総会がありますが、臨時総会が開かれることはほとんどありません。
総会の開催とは、具体的には以下です。
1.公民館など会場の確保
2.『総会のご案内』を作成し回覧(総会の1ヶ月前までに)
3.総会への出欠表を作成して回覧し、出席者数を確認
4.出席者分の総会資料の作成
自治会長には、ある程度の文章作成能力とワープロ技術が必要です。当然、パソコンがないと仕事になりません。プリントアウトは、大手コンビニチェーンのマルチコピー機を使用すればプリンターはいりません。プリントアウトの費用やコピー代は、領収書をまとめて会計に請求します。
5.他の役員と会場設営(総会当日)
6.総会のとりまとめ
活動報告や会計報告など形式的な会議ですが、まれにイレギュラーな議案があると紛糾することもあります。
7.総会の議事内容の資料を作成して回覧
③各種イベントへの参加
例えば以下のようなイベントがあります。
各種例祭、ラジオ体操、市民運動会、防災訓練、各種子供会の行事、神社の清掃奉仕活動、分別回収の立ち合いなど
少しずつイベントも減る傾向です。
筆者の自治会では、盆踊りとお日待ち(懇親会)が最近廃止になりました。
④回覧資料の班長への配布(月2回)
既成の回覧資料や配布物は、関係先から自宅に届くので班長に必要部数を届けます。
自治会長として会員に周知したいことがあれば、別途資料を作成して回覧します。
⑤地域要望書のとりまとめ
地域要望書とは、地域の問題や改善策について意見をまとめ、行政に提出する文書のことです。
例えば、道路の修繕や街灯の設置、公共交通機関の改善など、住民が日常生活で感じる不便や必要性に基づいた要望をとりまとめます。
回覧板などを通じて要望を会員から募ります。
⑥各種支払い・集金管理
各種団体・支部への上納金の支払い、自治会費の集金、交通安全協会費の集金、お札代金の集金などです。
主に回覧での会員への周知と班長や会計責任者への指示業務です。
⑦76歳以上の高齢者の安否確認(年1回)
会員以外の高齢者の安否も確認します。
80歳以上の高齢者については、敬老会の参加確認を兼ねます。
これから本格的な超高齢化社会を迎える日本では、このような活動はますます大切になってきます。
⑧国勢調査の調査員業務(5年に1回)
自治会長が必ずやらなければならない仕事ではありませんが、通常大半のひとがやることになります。
自治会長は、地域の状況をよく知っているため調査員として適任だからです。
ひとり当たり40~50世帯、場合によっては、その倍の世帯に調査資料を配布します。
原則、手渡しです。
まとめ
現代はグローバル資本主義経済の時代です。
お金さえあれば、世界中の商品が家に居ながらにして手に入ります。
要するに、現代はひとりで生きていける時代※3です。
※3 一方で孤立化は社会問題化しています。
こんな現代は相互扶助の存在価値は薄れて、大規模災害でも起こらない限り「自治」の必要性も顧みられません。
自治会の入会率は全国で減少しており、自治会長のなり手もいません。
しかし、世界でもまれに見る超高齢化社会が今後到来する今、「自治」を再評価すべき時が来ています。
定年まもない頭も身体も元気なシニアは、自治会長チャレンジをおすすめします。
ゴミステーションの防鳥ネット張替え完了
雑用も自治会長の仕事のうちです。
こういう仕事は、自主的にやった方が達成感があります。
ただこれで、カラスと戦う楽しみがなくなってしまいました。