日本企業、特に大企業(JTC※1)には、部下の手柄を横取りしないような奇特な上司はめったにいません。
※1 JTCとはJapanese Traditional Companyの略で、古い体質の日本の伝統的な大企業を揶揄するネットスラング
なぜなら、これは日本企業に固有の構造的な原因によるものだからです。
この記事を読めば、その謎が解けます。
大企業(JTC)で手柄を横取りされ続けた筆者が、大企業(JTC)には部下の手柄を横取りする上司しかいない理由を解説します。
<自己紹介>
筆者本人(1960年生)
筋トレ歴16年 ボクシング歴11年
<筆者略歴>
1984年 東京大学工学部建築学科卒業後、ゼネコンに入社
1988年 インフラ企業に転職
2018年 子会社の不動産会社に転籍
2923年 退職
目次
大企業(JTC)には部下の手柄を横取りする上司しかいない理由とは?
大企業(JTC)には部下の手柄を横取りする上司しかいない構造的な原因は、日本固有の雇用システムであるメンバーシップ型雇用です。
メンバーシップ型雇用の本質は、新卒一括採用、年功序列と終身雇用の3点セットで、社員を定年まで会社に縛り付けておく社員奴隷化システム※2 です。
※2 メンバーシップ型雇用は、定年までの安心を餌に社員を奴隷化する雇用システムで、高度経済成長期に広がりました。当時は人口増に伴う内需で、モノをつくれば簡単に売れた少品種大量生産の時代です。経営課題と言えば、十分な労働力を長期にわたって安定的に囲い込むことでしたが、この雇用システムによってそれがが可能となりました。
そして、大企業(JTC)には部下の手柄を横取りする上司しかいない理由は、この社員奴隷化システム特有の「年を取ってからやっと元が取れる給与体系」にあります。
メンバーシップ型雇用における賃金カーブは以下のようになっています(下のグラフ参照)。
引用:賃金を切り口とした年功序列型人事制度の検証 | 産業能率大学 総合研究所のグラフに筆者が加筆
これは、若いうちは貢献度を下回る賃金水準に抑えて、年を取ってからその分を回収させる仕組みで、その狙いは、元を取れるまで社員を会社に縛り付けておくことです。
さらに、管理職の観点を付け加えると、管理職になるまでは上司に手柄を横取りされ、管理職になったらその分部下から手柄を横取りするということになります。
したがって、管理職になれなければ、手柄の取られ損というわけです。
もっとも、年功序列や終身雇用は、その人件費負担に耐えられないため破綻しつつあります。
そのため、役職定年※3 や希望退職(リストラ)によって、元を取る前に給与を下げられたり追い出される社員も増えています。
※3 役職定年とは、一定の年齢(55~60歳が多い)になると役職と部下をはく奪された上に、給与も減額される「戦力外通告」です。参考:【大企業の役職定年】その実態・原因・乗り切り方とは?
グラフの貢献度曲線は時価ベースの賃金カーブです
引用:同上
メンバーシップ型雇用の日本企業には、時価ベースの賃金という考え方がありません。
一方、欧米のジョブ型雇用※4 の賃金は時価ベースです。
※4 ジョブ型雇用とは、明確な職務(ジョブ)が定められ、その職務を遂行するための専門スキルを持つ人材を採用する雇用形態です。職務ではなく組織に所属することを重視し、職務を定めることなく採用するメンバーシップ型雇用とは対照的です。
役職定年制度は、会社に在籍させたまま給与を時価ベースに近づける仕組みと言えます。
また、希望退職制度(リストラ)は、会社から追い出して給与を時価ベースに下げる仕組みとも言えます。
まとめ
大企業(JTC)には部下の手柄を横取りする上司しかいない理由は、メンバーシップ型雇用特有の「年を取ってからやっと元が取れる給与体系」にあります。
ただし、人件費負担が重い年功序列や終身雇用の破綻が始まっているため、部下から手柄を十分に横取りできないまま葬られる上司も増えつつあります。
参考:リストラが変わり始めた!これからのリストラに対応した働き方とは?