ながら江雪の人生ノート

現役サラリーマンと定年シニアのお悩み解決

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メンバーシップ型雇用を変えたくない社員と社長それぞれの事情とは?

メンバーシップ型雇用※1 を変えるべきだという議論は、特にバブル崩壊後の1990年代から活発化しました。

 

※1 メンバーシップ型雇用とは、新卒一括採用、終身雇用、年功序列を3本柱とする日本固有の雇用システムです。定年までの安心を「餌」に社員を奴隷化する雇用システムで、高度経済成長期に広がりました。当時は人口増に伴う内需で、モノをつくれば簡単に売れた少品種大量生産の時代です。従って、経営課題と言えば、十分な労働力を長期にわたって安定的に囲い込むことでしたが、この雇用システムによってそれがが可能となりました。

 

バブル経済の崩壊により、企業が終身雇用や年功序列を維持することが難しくなったからです。

さらに、2000年代以降、経団連がジョブ型雇用※2 を推進し始めたことが、メンバーシップ型雇用の見直し議論を加速させる要因となりました。

 

※2 ジョブ型雇用とは、明確な職務(ジョブ)が定められ、その職務を遂行するための専門スキルを持つ人材を採用する雇用形態です。職務ではなく組織に所属することを重視し、職務を定めることなく採用するメンバーシップ型雇用とは対照的です。

 

経団連がジョブ型雇用を推進し始めた背景には、次のようないくつかの重要な理由があります。

グローバル競争力の向上

グローバル化が進む中で、日本企業が国際市場で競争力を維持するためには、国際的に採用されているジョブ型雇用によって、専門性の高い人材を確保する必要があります。

労働市場の流動性促進

ジョブ型雇用は、職務内容が明確であるため、転職やキャリアアップがしやすくなります。これにより、労働市場の流動性が高まり、企業間での人材の移動が円滑になると期待されています。

生産性とエンゲージメントの向上

職務に基づいた評価や報酬制度は、従業員が自分のスキルや成果に応じた報酬を得られるため、モチベーションやエンゲージメントの向上につながります。

デジタル化や技術革新への対応

デジタル化や技術革新が進む中で、特定のスキルや専門知識を持つ人材の需要が高まっています。ジョブ型雇用は、こうした専門人材を効率的に採用・活用するための仕組みとして有効です。

経団連は、これらの理由からジョブ型雇用を推進し、日本企業の競争力を強化しようとしました。

ところが、一部の企業で「なんちゃってジョブ型」を導入して失敗した例はあるものの、笛吹けども踊らずで、現在でも本質的にはメンバーシップ型雇用を続ける日本企業がほとんどです。

その結果、日本の凋落ぶり(世界競争力、時価総額、名目GDP)は惨憺たるものであり、失われた30年が40年に延長されることは確実な状況です。

この記事では、なぜメンバーシップ型雇用が抜本的に変えられないのか、その本質を突きます。

■この記事を読んで頂きたい人■
・メンバーシップ型雇用の日本企業に勤務する若手サラリーマン

 

■この記事でわかること■
①メンバーシップ型雇用を変えたくない社員の事情とは?

②メンバーシップ型雇用を変えたくない社長の事情とは?
 
いわゆる一流企業に就職して「抑留」され、飼殺されてしまった筆者が、メンバーシップ型雇用を変えたくない社員と社長それぞれの事情を解説します。

<自己紹介>

筆者本人(1960年生)
筋トレ歴16年 ボクシング歴11年

<筆者略歴>
1984年 東京大学工学部建築学科卒業後、ゼネコンに入社
1988年 インフラ企業に転職
2018年 子会社の不動産会社に転籍
2923年 退職

 

      

 目次

メンバーシップ型雇用を変えたくない社員の事情とは?

日本企業の社員は、終身雇用と年功序列によって得られる定年までの「安心」のために、会社の奴隷になっている人がほとんどです。※3

 

※3 日本の学校教育においては、「一流大学へ進学して、一流企業への就職」を目指すという価値観が深く根付いています。その結果、多くの優秀な人材が一流企業に入社して、「抑留」されてしまいます。しかし、重い大企業病に罹患した多くの一流企業の実態は「一流」には程遠いため、彼らのほとんどは飼殺されて枯れていきます。この一流企業による優秀な人材の「抑留」による飼殺しも、日本の凋落ぶり(世界競争力、時価総額、名目GDP)の一因です。

 

役職定年になって肩書と部下をはく奪されて給与を減額されたとしても、金銭解雇されて今さら転職先を探すよりまだましです。

そもそも新卒一括採用でとりあえずメンバーになり、会社都合の異動でなんでも仕事をこなしてきたジェネラリスという名の「なんでも屋」では、市場性のある転職スキルは持ち合わせていません。

今さら、メンバーシップ型雇用をジョブ型雇用に変革して、転職でキャリアアップする働き方なんてできるわけがありません。

2024年9月頃の自民党総裁選挙の際、小泉進次郎議員が金銭解雇について言及※4 した時の世間の反応がそれを物語っています。

 

※4 日本では解雇規制(整理解雇四要件)によって企業側が裁判で敗訴するケースが多いのは、メンバーシップ型雇用の特徴の一つである「会社都合の異動権」にあります。「会社都合の異動権」を保有する企業側は、整理解雇四要件のうちの特に「解雇を回避する努力を尽くすこと」を厳格に求められるからです。

 

一般的には批判的な意見が多く、特に「解雇の自由化」や「ブラック企業を助長するのではないか」といった懸念が挙げられました。

また、労働者の保護が弱まる可能性や、具体的な制度設計の不透明さに対する不安も指摘されています

一方で、メリットがあると評価したのは若者層だけで、18~29歳の約6割が賛成しているという調査結果もあります。

また、メンバーシップ型雇用独特の賃金カーブも変革のブレーキになっています(下のグラフ参照)。

引用:賃金を切り口とした年功序列型人事制度の検証  | 産業能率大学 総合研究所

グラフの貢献度曲線とは、時価ベースの賃金を意味します。

メンバーシップ型雇用を変革して、ジョブ型雇用などで労働力の流動化を促すことは、賃金を時価ベースに変えることを意味します。※5

 

※5 役職定年制度は、社員を会社に在籍させたまま賃金を時価ベースに近づける施策です。また、希望退職制度(リストラ)は、社員を社外に放出して賃金を時価ベースにする施策です。参考:リストラが変わり始めた!これからのリストラに対応した働き方とは?

 

現在、搾取されている年代(概ね40歳前)にとってはメリットがありますが、これから元を取ろうとするミドル・シニア社員は割りを食うことになります。

メンバーシップ型雇用を変えたくない社員の事情を以下にまとめました。

①定年までの安心を得るために会社の奴隷となるサラリーマン人生しか知らない

②今さらジョブ型雇用になっても市場性のある専門スキルがないのでどうしようもない

③ミドル・シニア社員は、メンバーシップ型雇用が変わって賃金が時価ベースになったら割を食う

 

こぼれ話

解雇を容易にすれば失業率が下がる?

橘玲著『不愉快なことには理由がある』からの引用です。

不況で失業者が増えると、「労働者の生活を守るために社員を解雇できないようにすべきだ」と叫ぶひとが出てきます。

しかしこれは、逆に失業者を増やし、不況を悪化させ、人々を苦しめている可能性が高いのです。

(中略)

欧米主要国の労働市場を比較しても、解雇が容易なアメリカやイギリスは雇用率が高く、雇用規制の強いドイツやフランスの雇用率が低くなっていることがわかります。

解雇規制が厳しい場合、業績が悪化した際に解雇しやすい非正規社員だけを雇用する傾向が強まり、結果として経済格差が拡大する可能性があるのです。

 

 

メンバーシップ型雇用を変えたくない社長の事情とは?

メンバーシップ型雇用を採用している日本企業の社長は、経営力ではなく社内政治力(権力闘争)で社長になったすごろく上がりのサラリーマン社長です。

彼らは「任期中、大過なく過ごす」ことに終始するため、長期的に見れば合理的でも短期的には不合理な施策は実行に移しません。

それを実行でるのが、起業家出身の社長や外部から招へいされる経営のエキスパートです。※6

 

※6 一橋ビジネススクール(HUB)の楠木建 特任教授も、著書『ストーリーとしての競争戦略』で「経営戦略において、短期的な利益よりも長期的な利益を重視するべきだ」と主張しています。これができる日本の経営者(経営のスペシャリスト)は、ユニクロの創業者 柳井正氏などごく一部です。

 

メンバーシップ型雇用を変えたくない社長の事情を以下にまとめました。

①「任期中、大過なく過ごす」ためには、短期的に見て合理的なことしかしたくない

②メンバーシップ型雇用を変えるなんて大変なことをしても、自分にとっては何のメリットもない

 

 

まとめ

メンバーシップ型雇用を変えたくない社員の事情とは?

①定年までの安心を得るために会社の奴隷となるサラリーマン人生しか知らない

②今さらジョブ型雇用になっても市場性のある専門スキルがないのでどうしようもない

③ミドル・シニア社員は、メンバーシップ型雇用が変わって賃金が時価ベースになったら割を食う

メンバーシップ型雇用を変えたくない社長の事情とは?

①「任期中、大過なく過ごす」ためには、短期的に見て合理的なことしかしたくない

②メンバーシップ型雇用を変えるなんて大変なことをしても、自分にとっては何のメリットもない

社員と社長の利害が合致しているため、このまま「茹でガエル」状態は当分続きそうです。

ユニクロの柳井正氏が、報道番組(2024年8月26日 日本テレビ)で発言した「日本の経営者が変革を恐れ、現状維持に固執している」「日本人は滅びるのではないか」という言葉を真剣に受け止める気になった時は、もう茹で上がっています。

参考:失われた40年を招く日本の経営者はなぜこんなにダメなのか?