メンバーシップ型雇用とは、新卒一括採用、年功序列、終身雇用を3本柱とする日本固有の雇用形態です。
その最大の特徴は、社員を囲い込んで会社都合の異動で使い回すことです。
この記事を読めば、メンバーシップ型雇用を採用している企業の整理解雇が、いかに合理性を欠いているかが分かります。
※1 「肩たたき」と呼ばれる強い圧力による希望退職は整理解雇の姑息な一形態です
②メンバーシップ型雇用では整理解雇が難しい当然すぎる理由とは?
<自己紹介>
筆者本人(1960年生)
筋トレ歴16年 ボクシング歴11年
<筆者略歴>
1984年 東京大学工学部建築学科卒業後、ゼネコンに入社
1988年 インフラ企業に転職
2018年 子会社の不動産会社に転籍
2923年 退職
目次
そもそもメンバーシップ型雇用はなぜ始まったのか?
メンバーシップ型雇用が広まったのは、1950年代後半から始まった高度経済成長期です。
そして、その後の急激な人口増による内需の拡大が、バブル経済期までの日本の経済成長を支えました(下のグラフ参照)。
引用記事:グラフで見る日本の人口推移に筆者が加筆
驚異的な高度経済成長は、当時「東洋の奇跡」ともてはやされましたが、奇跡ではなく必然です。
その後、中国やインドが同じように人口増に伴って経済成長※2 を遂げているのも同じ理屈です。
※2 「人口の波」による経済変動については、藻谷浩介著『デフレの正体 経済は「人口の波」で動く』に詳しく書かれています。
人口増による内需拡大の時代は、アメリカなど先進国の商品を真似して、より安くて良いモノをつくれば簡単に売れた時代です。
そうなると残る経営課題は、急速な経済拡大で不足する労働力の長期的かつ安定的な確保です。
そこで編み出されたのが、新卒一括採用・終身雇用・年功序列の3本柱で、定年までの「安心」を餌に社員を囲い込んで奴隷化するメンバーシップ型雇用です。
このように、メンバーシップ型雇用は高度経済成長時代の労働力の囲い込み戦術が起源なのです。
メンバーシップ型雇用では整理解雇が難しい当然すぎる理由とは?
整理解雇を行う場合、「整理解雇の4要件」と呼ばれる以下の4つの要件を満たす必要があります。
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人員削減の必要性: 企業が経営危機や業績悪化に直面し、人員削減が避けられない状況であることを証明する必要があります。
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解雇回避努力義務: 解雇を避けるためのあらゆる努力(配置転換、賃金カットなど)が行われたことを示さなければなりません。
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人選の合理性: 解雇の対象者を選ぶ際に、公平で合理的な基準が用いられることが求められます。差別的な基準や恣意的な選定は認められません。
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手続きの適正性: 解雇にあたって、労働組合や従業員との十分な協議が行われ、適切な手続きが踏まれていることが重要です。
この4要件のうち、メンバーシップ型雇用ではクリアが構造的に不可能な要件が、「2. 解雇回避努力義務」です。
なぜなら、メンバーシップ型雇用とは、社員を囲い込んで仕事を選択する自由をはく奪し、会社都合で仕事を割り当てる雇用形態だからです。
本人の希望は無視してどんな仕事でもやらせる「権利」※3 を会社側が持つわけですから、当然、会社には社員の雇用を守る「義務」があります。
紙切れ一枚(異動通知)で社員を好きなように使い回してき企業側の「もうやらせる仕事はありません」は通用しません。
※3 この「権利」を悪用したのがブラック企業です。新卒一括採用で正社員を(どうせすぐ辞めるので)大量に採用し、最低賃金とサービス残業による搾取によって、アルバイトを雇うよりさらに人件費を抑える経営がブラック企業の狙いです。これは、日本固有のメンバーシップ型雇用の権利(正社員の奴隷化)と義務(正社員に定年までの安心を与える)を形式的に守っていれば問題ないという極めて狡猾なビジネスモデルです。
なお、裁判所が適法と認める「整理解雇の4要件」のクリアが非常に難しいため、実際には「肩たたき」と呼ばれる「強い圧力による希望退職」が常態化しています。
しかし、「強い圧力による希望退職」は、法的には希望退職の趣旨を逸脱しており、整理解雇と同様の責任が企業側に課されます。
日本と対照的なアメリカの雇用形態
アメリカでは、at-will雇用とジョブ型雇用を組み合わせた雇用形態が一般的です。
これは、日本の雇用形態と真逆で、社員に仕事の選択の自由があるかわりに会社側は社員の雇用を守る義務はありません。
at-will雇用では、雇用主と従業員の双方がいつでも自由に雇用関係を終了できます。
なお、ジョブ型雇用とは、ポストに人をつける雇用形態で、人にポストをつけるメンバーシップ型雇用とは真逆です。
まとめ
✔そもそもメンバーシップ型雇用はなぜ始まったのか?
・高度経済成長時代に、労働力を長期安定的に囲い込むために始まった
✔メンバーシップ型雇用では整理解雇が難しい当然すぎる理由とは?
・「整理解雇の4要件」のうち特に「2. 解雇回避努力義務」は、クリアが構造的に不可能な要件
・なぜなら、メンバーシップ型雇用とは、本人の希望は無視してどんな仕事でもやらせる「権利」と社員の雇用を守る「義務」がある雇用形態だから