メンバーシップ型(新卒一括採用、終始雇用、年功序列)は、労働力の長期安定的な囲い込みを目的として、人手が足りない高度経済成長期に導入されました。
それから半世紀以上が経過して、経営環境がまったく異なっているにもかかわらず、日本企業はいまだにメンバーシップ型を抜本的に変えようとしません。
現在では従業員を会社に留めておくこの仕組みが、人件費削減や解雇の足かせになっています。
この記事では、日本企業がメンバーシップ型を維持し続けた場合、賃金体系がどのように変化せざるを得ないのか、また働き方がどのように変わるのかを予測していきます。
②メンバーシップ型が続く日本企業の賃金体系が行き着く先~フランス型とは?
③日本版フランス型賃金体系を採用した場合に露見する致命的な問題点とは?
<自己紹介>

筆者本人(1960年生)
筋トレ歴17年 ボクシング歴11年
<筆者略歴>
1984年 東京大学工学部建築学科卒業後、ゼネコンに入社
1988年 インフラ企業に転職
2018年 子会社の不動産会社に転籍
2923年 退職
目次
- メンバーシップ型が続く日本企業の崩壊しつつある賃金体系
- メンバーシップ型が続く日本企業の賃金体系が行き着く先~フランス型とは?
- 日本版フランス型賃金体系を採用した場合に露見する致命的な問題点とは?
- まとめ
メンバーシップ型が続く日本企業の崩壊しつつある賃金体系
失われた30年の間に、メンバーシップ型の”売り”であった「定年まで年功序列」は消滅しました。
経済の停滞により、終身雇用や年功序列を維持するための人件費負担に耐えられなくなったためです。
具体的には、一定の年齢に達すると役職と部下をはく奪されて給与も下がる役職定年制度や成果主義の名のもとに賃金を下げる賃金改定制度の導入、あるいは希望退職制度による「肩たたき(リストラ)」などによって、賃金カーブは下のグラフの旧賃金カーブの崩壊曲線に変わりつつあります。

引用:賃金を切り口とした年功序列型人事制度の検証 | 産業能率大学 総合研究所に筆者が加筆
メンバーシップ型の日本企業における賃金体系では、おおむね40歳を過ぎた頃から若年期の貢献度を賃金で回収する仕組みが一般的でした※1 が、現在では上記のグラフが示すようにそれが困難な状況に直面しています。
※1 前にも触れましたが、メンバーシップ型企業の賃金体系は、人手が足りない高度経済成長期に労働力の長期安定的な囲い込みを目的として導入されたため、このような仕組みになっています。
メンバーシップ型が続く日本企業の賃金体系が行き着く先~フランス型とは?
フランスの従業員は、学歴によってカードル(エリート層)とノン・カードル(非エリート層)に分かれます。
さらに、ノン・カードルは、学歴と資格によって中間従業員と一般従業員や工員に分かれます。
中間従業員とは、カードルと一般従業員や工員の中間に位置する従業員です。
フランスでは、学歴などによる身分の差が厳格に存在しており、表向きには平等とされる日本とは対照的です。
身分の違いによる年収の差は、下のグラフの通りです。

出典:Insee 2014, DADS, Salaire brut en équivalent temps plein, par âge et catégorie socioprofessionnelle simplifiéeに筆者が加筆
努力で年収が上がるのはカードルだけで、中間従業者や一般従業員・工員はがんばっても上の身分に這い上がることはできず、定年まで大して年収は上がりません。
そのため、日本の一般的な会社員のように長時間労働でがんばる※2 のはカードルだけで、中間従業者や一般従業員・工員は定時退社が一般的です。
※2 日本の会社員の「がんばり」とカードルのそれとは”質”が違います。日本企業での社員評価は、客観的な業績評価や能力評価ではなく、上司の主観でどうにでもなる情意評価が一般的です。そのため、日本人の「がんばり」は上司への忖度やアピールが主目的ですが、カードルの「がんばり」は文字通りの「がんばり」です。カードルは成果主義の契約で働くことが多く、労働時間が柔軟である代わりに、責任が重く、長時間労働になることもあります。参考:フランスとの比較から分かる日本人が働き過ぎる理由と賢い働き方とは?
フランスの労働生産性が日本より格段に高い理由がここにあります。

引用:日本の1人当たり労働生産性 G7で最下位 | 労基旬報オンラインに筆者が加筆
日本でも、経済が停滞しているにもかかわらずメンバーシップ型を続けるなら、次のようなフランス型の時代が到来する可能性は十分に考えられます。
・「選別主義によって選ばれたエリート層」と「静かな退職者」で構成されるフランスのような身分別の賃金体系
総合職と一般職という既成の身分制度が進化して、総合職の一般職化が進むイメージです。
さらに言えば、日本の総合職と一般職という身分制度は性差別を隠蔽する制度ですが、フランス型は性差別ではなく学歴による身分制度です。
選別主義によって選ばれたエリート層とは?
「優秀な人材を選別するのは当然のこと」というナイーブ(素朴)な考え方によって、一部の幹部候補を学歴などで選別し、その他の社員の出世の道を閉ざしてしまうイデオロギーが選別主義です。
日本の企業、特にJTC※3 では、表向きは「出世は今後の業績次第」と言いながら、裏では内々行われてきた慣行です。
※3 JTCとはJapanese Traditional Companyの略で、古い体質の日本の伝統的な大企業を揶揄するネットスラング
「選別主義によって選ばれたエリート層」とは、新しい概念ではなく、いわゆる官庁の「キャリア組」、銀行の「本店組」や商社などの「本社組」です。
参考:選別主義の矛盾と不条理|選別されたエリートたちの実像とは?
静かな退職者とは?
「静かな退職者」とは以下の3つの特徴を持つ総合職です。
「静かな退職者」は、定年退職直前のように余裕をもった精神状態で働く社員で、昭和のモーレツ社員※4 とは対照的です。
※4「モーレツ社員」は、昭和時代に使われた言葉で、猛烈に仕事に打ち込むサラリーマンを指します。これは、家庭や私生活を犠牲にして会社に人生を捧げる姿勢を形容した言葉です。高度経済成長期の日本では、なりふり構わず会社のために尽力する社員の姿を表現した言葉として使われました。
モーレツ社員は、出世や高い給与を得るために滅私奉公の道を選択したサラリーマンである一方、静かな退職者は、出世や高い給与を求めない代わりに会社の奴隷にはならない生き方を選んだサラリーマンと言えます。
これまで総合職として扱われていた多くの人が、従来の表現で言えば、実質的に一般職に分類されると言えます。
日本版フランス型賃金体系を採用した場合に露見する致命的な問題点とは?
日本版フランス型賃金体系を採用した場合に露見する致命的な問題点とは、日本企業の経営者の能力不足です。
日本企業の経営者の能力の低さは、国際経営開発研究所「世界競争力年鑑」の調査データからも分かります。
以下、三菱総研の記事から引用します。
ビジネス効率性分野の「経営プラクティス」などの小分類項目の順位は低位で固定化しており、改善傾向がみられない。
特に企業の意思決定の迅速さや機会と脅威への対応力、起業家精神などからなる「経営プラクティス」は64カ国・地域中62位であり、日本の最大の課題である。
日本の経営者の能力が低い原因は、彼らが会社という「共同体」内での評価を受けて経営者の地位に就いたに過ぎず、「市場」によって評価されて選ばれたわけではないことにあります。
彼らは、「共同体」での権力闘争の末にトップに上り詰めたすごろく上がりのサラリーマン社長であり、経営のスペシャリストではありません。
仮に、フランス型のような身分別の働き方になった場合、静かな退職者は滅私奉公型サラリーマンの「現場力」で経営者を助けることはありません。
これまでのように、「なんとかしろ!」といっても無駄です。
日本版フランス型企業の経営は、これまでとは違い、経営者が会社の命運を直接掌握する本来のあるべき姿になります。
参考:大企業(JTC)の現場力の正体と現場力が失われた本当の理由とは?
参考:JTC経営者が「なんとかしろ!」としか言えない理由と会社の末路とは?
まとめ
✔メンバーシップ型を続ける日本企業の崩壊しつつある賃金体系とは?

引用:賃金を切り口とした年功序列型人事制度の検証 | 産業能率大学 総合研究所に筆者が加筆
・40歳を過ぎたころから、役職定年制度や賃金カットを正当化する成果主義の導入、あるいは希望退職制度による「肩たたき(リストラ)」などによって、賃金は貢献度見合いに下落
✔メンバーシップ型を続ける日本企業の賃金体系が行き着く先~フランス型とは?
・「選別主義によって選ばれたエリート層」と「静かな退職者」で構成されるフランスのような身分別の賃金体系
✔日本版フランス型賃金体系を採用した場合に露見する致命的な問題点とは?
・日本企業の経営者の能力不足
・静かな退職者に「なんとかしろ!」といっても、従来の滅私奉公型サラリーマンとは異なり何もしない、要するに「現場力」を発揮しない
時代に合わないメンバーシップ型を変革しない経営者に、結局はツケが回てくるのです。
参考:失われた40年を招く日本の経営者はなぜこんなにダメなのか?
