第二次世界大戦後、日本は焼け野原からわずか数十年で驚異的な経済成長を遂げました。
この「東洋の奇跡」と呼ばれた高度経済成長(1950年代半ばから1970年代初頭)を支えたのが、日本型経営※1 企業のチームワークです。
※1 日本型経営とは、メンバーシップ型雇用(新卒一括採用、終身雇用、年功序列)と企業内労働組合(欧米の労働組合は産業別か職業別で、日本のように企業別ではありません)を特徴とする日本固有の経営システムです。
しかし、1990年代初頭のバブル経済崩壊後から、日本は長期的な低成長を続け、「失われた30年」は「失われた40年」へと移行しつつあります(下のグラフ参照)。
【日本の経済成長率の推移】
引用:図録▽経済成長率の推移(日本)に筆者が加筆
この記事では、もはや時代に合わなくなった日本型経営企業のチームワークを、欧米型経営企業のチームワークと比較しながら解説します。
②欧米型経営企業のチームワークとは?
③日本型と欧米型でチームワークが全く違う理由とは?
<自己紹介>
筆者本人(1960年生)
筋トレ歴17年 ボクシング歴11年
<筆者略歴>
1984年 東京大学工学部建築学科卒業後、ゼネコンに入社
1988年 インフラ企業に転職
2018年 子会社の不動産会社に転籍
2923年 退職
目次
日本型経営企業のチームワークとは?
日本型経営企業のチームワークとは、一言で言えば「軍隊型」です。
新卒一括採用で"徴兵"されたメンバーは、終身雇用と年功序列による定年までの安心と引き換えに、その間の忠誠を約束させられます。
そして、会社に役割を割り当てられて、言われるがままに"戦地"に赴きます。
チームは、明確な上下関係が特徴で、指示命令系統がしっかりしている「ピラミッド型組織」です。
日本型経営企業のチームワークでは、メンバー個々の専門スキルよりも、「協調性と団結力」や「根性」「やる気」「気合」といった、まるで戦時中のような精神論※2 を重視し、企業内での連携を強化する点が特徴です。
※2 日本はアメリカと比較して、国力が大きく劣っている(戦争開始時のアメリカの人口は日本の約1.9倍、国民総生産は約11.8倍、鉄鋼生産量は約12倍、石油生産量は約528倍など)にもかかわらず、第二次世界大戦へと突き進んでいきました。そのため、特に日本陸軍は、戦力や資源が不足している状況においても、精神的な士気や根性を頼りに困難を乗り越えようとしました。しかしその結果、合理的な計画や現実的な戦術が犠牲となり、甚大な犠牲を払った末の悲惨な敗北となりました。
また、人事部がリスクを回避するために同じような価値観を持つ人材を採用する結果、社員が同質化し、その影響で職場での結束力が一層強化されています。
こういった特徴をもつ日本型経営企業のチームワークは、キャッチアップ経済※2 の典型例である高度経済成長期(1950年代半ばから1970年代初頭)においてその力を遺憾なく発揮しました。
※3 キャッチアップ経済とは、発展途上国が欧米などの先進国の技術を取り入れ、より安価で質の高い商品を生産することで、先進国に追いつき追い越そうと頑張るプロセスを指します。
日本型経営企業は、なぜ体育会系出身者を好んで採用するのか?
それは、体育会系出身者が「軍隊型」のチームワークと非常に相性が良いためです。
欧米型経営企業のチームワークとは?
欧米型経営企業のチームワークとは、一言で言えば「オーケストラ型」です。
まずチームが目指す成果(演奏曲目)を明確に決めて、必要なメンバーの専門スキルと要員数(楽器編成)を決めます。※4
※4 日本型経営企業では、プロジェクトームを編成する際、チームの目的が明確でない状態で、部署間のバランスなどに配慮しつつメンバーを選定することが一般です。チームリーダーには幹部に評判が良い幹部候補が就き、ナンバー2には能力のある人材をつけます。プロジェクトがうまく行った場合はチームリーダーである幹部候補の手柄になり、失敗した場合はナンバー2の責任となります。参考:大企業の社内競争は客観的な成果や能力より評判が重要な理由とは?
それに基づいて、企業内の異動や中途採用を行います。
チームリーダー(指揮者)は、個々の専門的な仕事(演奏)は構成メンバーに任せて、それぞれの専門スキル(異なる音色)がうまくかみ合って、最高の結果が出せる(最高のハーモニーが奏でられる)よう全体を指揮します。
チームは、多様性の高いメンバーが自由に意見を出し合いながらチーム全体で解決策を模索する「フラット型組織」※5 です。
※5 正確言えば、欧米でも特に歴史のある大企業や官公庁では、依然としてピラミッド型組織が主流となっています。
日本型と欧米型でチームワークが全く違う理由とは?
日本型と欧米型でチームワークが全く違う理由は、それぞれの雇用形態であるメンバーシップ型とジョブ型の違いに起因します。
メンバーシップ型は、まず大量に人を採用し、その後に仕事を割り当てるという「人に仕事をつける」雇用形態であるのに対し、ジョブ型は、仕事ごとに人を採用する「仕事に人をつける」雇用形態です。
下の表は、雇用形態の違いから派生して、チームワークの違いに影響を及ぼす要因の比較表です。
メンバーシップ型では、年功序列という年齢による身分制度が敷かれているために、組織の構造はピラミッド型(階層型組織)となっています。
また、社員は会社都合の異動で使い回されるため、これといった専門スキルをもたない、同じような価値観を持ったジェネラリスト(万能型という名の「何でも屋」)です。
一方、ジョブ型では、明確に定められた責任範囲のもと、それぞれが専門スキルを活かして業務を遂行するため、比較的フラットな組織構造をとっています。
また、社員は多様な価値観と専門スキルを備えたスペシャリストであり、高い人材の多様性(ダイバーシティ)が特徴です。
ミシガン大学の複雑系、政治科学、経済学 教授 スコット・ペイジ氏は著書『多様な意見はなぜ正しいのか』で、多様性のある視点を持つ集団が問題を解決する際に、個々の専門性やスキルが同質なグループよりも優れた成果を出せる可能性が高いと論じています。
多様性が「さまざまな視点や解釈モデル」を提供し、それが新たなアイデアや解決策を生み出すからです。
シリコンバレーは、まさに多様性がイノベーションを生む中心地として知られています。
多国籍の人々や異なるバックグラウンドを持つ専門家が集まり、互いのアイデアを活かして次々と革新的な技術やサービスを生み出しています。
この地域の文化として、失敗を恐れずに挑戦する精神(「Fail fast, fail often, fail forward」:早く失敗し、頻繁に失敗し、その失敗を前進に活かせ)と、異なる意見や視点を尊重する風潮が根付いています。
参考:ダイバーシティ経営の実態|日本企業が絶対導入できない理由とは?
まとめ
✔日本型経営企業のチームワークとは、一言で言えば「軍隊型」です。
✔欧米型経営企業のチームワークとは、一言で言えば「オーケストラ型」です。
✔日本型と欧米型でチームワークが全く違う理由は、それぞれの雇用形態であるメンバーシップ型とジョブ型の違いに起因します。
「和を以て貴しとなす」が意味するチームワークとは?
聖徳太子が制定した十七条憲法の第一条に出てくる「和を以て貴しとなす」は、日本型のチームワーク(軍隊型)を意味するのでしょうか?
それとも欧米型のチームワーク(オーケストラ型)を意味するのでしょうか?
聖徳太子が十七条憲法を制定した飛鳥時代は、豪族たちの権力闘争が激しかった時期でした。
特に大和政権が成立する過程で、豪族同士の力関係が複雑に絡み合っていました。
この憲法は、そんな政治的混乱を抑え、和を重んじる統治の理念を確立することを目指していたことから、筆者は欧米型のチームワークだったと推測します。
決して、「空気を読む」という文化や同調圧力を肯定するような日本的集団主義を聖徳太子は望んでいたのではないと思います。