筆者が新卒一括採用で大企業に就職した1980年代初頭、日本ではOA(オフィスオートメーション)の導入が始まりました。
文書作成、表計算など業務の効率化が期待できるソフトウェアが次々に導入され、パソコンも一人一台の時代が間もなくやってきました。
OAの導入によって、確かに作業そのものは効率化できましたが、なぜかホワイトカラーは増えました。※1
※1 1980年に28.6%だったホワイトカラーの割合は、1990年33.4%、2000年36.4%、2010年37.5%、2020年40.4%、最新の2023年では41.7%でした。また、ホワイトカラーの就業者数は、2010年2361万人、2023年では2815万人です(引用:リクルートワークス研究所)。なお、1990年代初頭にバブル経済が崩壊して以降、日本は「失われた40年」と呼ばれる長期にわたる経済停滞期に突入しており、企業成長でホワイトカラーが増えたとは考えられません。
おそらく、日本型経営の大企業ではAIが導入されても、OA導入時と同じようにホワイトカラー(正社員)は減らないでしょう。
この記事を読めば、誰も言わない、その当然の理由がわかります。
※2 JTCとはJapanese Traditional Companyの略で、古い体質の日本の伝統的な大企業を揶揄するネットスラング
※3 主にオフィスで勤務する正社員のホワイトカラーを対象とします。
<自己紹介>
筆者本人(1960年生)
出世競争は早めに降りて体づくりに励む
筋トレ歴17年 ボクシング歴11年
<筆者略歴>
1984年 東京大学工学部建築学科卒業後、ゼネコンに入社
1988年 インフラ企業に転職
2018年 子会社の不動産会社に転籍
2923年 退職
目次
日本型経営の大企業ではAI導入でホワイトカラーが減らない当然の理由とは?
日本型経営の大企業ではAI導入でホワイトカラー(正社員)が減らない当然の理由を説明する上で必要となる、日本型経営と欧米型経営の違いを表にしました(下表参照)。
日本型経営の大企業ではAI導入でホワイトカラー(正社員) が減らない当然の理由は、以下の2点です。
①そもそもメンバーシップ型雇用では正社員の解雇が極めて困難
②日本の仕事のスタイルはプロセス重視なのでAI導入でも仕事は減らない
以下、それぞれ解説します。
①そもそもメンバーシップ型雇用では正社員の解雇が極めて困難
日本型経営の柱であるメンバーシップ型(新卒一括採用、終身雇用、年功序列)と欧米で一般的なジョブ型の比較表です(下表参照)。
メンバーシップ型とは、簡単に言えば、メンバー(社員)を採用してから仕事を割り当てる(=人にポストをつける)雇用システムです。
一方、ジョブ型とは、ある特定の仕事を遂行できるスキルをもつ人材を採用する(=ポストに人をつける)雇用システムで、日本固有のメンバーシップ型とは対照的です。
日本固有のメンバーシップ型は、人手不足だった高度経済成長期に導入された雇用システムで、労働力の長期的かつ安定的な確保が目的でした。
したがって、とっくに役割を終えてしまったこの雇用システムは、今では非効率なワークシェアリング型雇用として生き残っています。
メンバー(社員)の数だけポスト(仕事)を捏造できてしまうというメンバーシップ型雇用の構造的欠陥が、著しく低い日本の労働生産性~「量」「質」国際比較の一因となっています。
さて、メンバーシップ型雇用では、会社の都合に応じて正社員を定年まで自由に配置転換できる「権利」がある一方で、定年まで雇用を保証する「義務」も生じます。
これが、正社員の解雇規制(整理解雇の4要件※4)の主旨であり、この要件を会社側が満たして法廷で勝利を収めることが極めて困難な理由です。
※4 整理解雇の4要件とは、①人員削減の経営上の必要性、②十分な解雇回避努力、③被解雇者の選定基準と人選の合理性、④整理解雇手続の相当性です。特に、会社側に社員を自由に配置転換できる「権利」があるため、要件②「十分な解雇回避努力」のクリアは極めて困難です。
以上のように、AI導入程度では、そもそも正社員の解雇は到底無理ですし、会社側も手間がかかるこんなバカな発想にはならないでしょう。
解雇するとすれば、一部の非正規社員(派遣社員、契約社員など)が、AI導入の人員削減効果としてスケープゴートにされるだけです。
また、OA導入時と同じように、AI導入によって新卒の採用人数を削減するようなケチな大企業は現れないでしょう。
②日本の仕事のスタイルはプロセス重視なのでAI導入でも仕事は減らない
日本の仕事のスタイルは、欧米のように成果重視(最小コストで最大効果)ではなく、なぜかプロセス重視です。
プロセス重視とは、次の考え方です。
・正しいプロセスが良い成果を生む(プロセスが正しくなければ良い成果は生まれない)
・AI導入はどこの企業も行っているので正しいプロセス
そして、
・一度決定したプロセスに固執し見直さない
・「AIを導入すること自体が目的」となり、期待する成果は明確にされない
さらに、プロセス重視によるAI導入は次のようにムダな仕事を生み出します。
・AI導入により、無能な上司が安易に過剰分析(オーバー・アナリシス)や過剰計画(オーバー・プランニング)の指示を出しやすくなる
・それに呼応して、部下はAIを利用して長時間労働に励み、上司への「がんばり」アピールと残業代を稼ぐ
以上は、OA導入後に辿ってきた道と同じです。
一人一台のパソコンが生み出したのは良い成果ではなく、メンバーシップ型のメンバー(社員)にとって良いプロセス(ムダな作業)だけです。
まとめ
大企業(JTC)が、もはや時代送れで経営上まったくメリットのないメンバーシップ型の改革に真剣に取り組まざるを得ないほど追い詰められない限り、AI導入を理由に正社員のホワイトカラーを削減するとは考えられません。
また、プロセス重視の大企業(JTC)でのAI活用はムダな仕事の増加につながり、労働生産性をさらに低下させるでしょう。
AIは労働集約型産業には適さないというのが一般的な見解ですが、むしろ深刻な人手不足に直面しているエッシャルワークにおいて、AIを活用する工夫こそが意義を持ち、有効であると筆者は考えます。