ながら江雪の人生ノート

現役サラリーマンと定年シニアのお悩み解決

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大企業のサラリーマン社長では絶対真似できない織田信長の組織改革

もし織田信長が、JTC(Japanese Traditional Company)と揶揄されるような古い体質の大企業の社長になったら、一体どうなるんでしょうか?

運命共同体と化したゆるい世界にどっぷり漬かった社員や、交際費使い放題※1 でのんきな経営陣などの幹部は、だれも”織田社長”にはついていけないでしょう。

 

※1 堺屋太一著『組織の盛衰』から以下引用

日本の企業は交際費支出が著しく多く、GDP当たりで見ると欧米の六倍にもなっている。

 

日本企業の経営者の能力の低さは「言ってはいけない真実」なのか、誰も口に出しませんが、ほぼ毎年順位を下げている世界競争力ランキングの調査データ(国際経営開発研究所)を見れば一目瞭然です。

以下、三菱総研の記事から引用します。

ビジネス効率性分野の「経営プラクティス」などの小分類項目の順位は低位で固定化しており、改善傾向がみられない。

特に企業の意思決定の迅速さや機会と脅威への対応力、起業家精神などからなる「経営プラクティス」は64カ国・地域中62位であり、日本の最大の課題である。

引用:IMD「世界競争力年鑑」2023年版からみる日本の競争力 | 三菱総合研究所(MRI)

2024年版の同調査では、「経営プラクティス」の順位はさらに下がって65位※2 となり、改善の兆しは全く見られません。

 

※2 2020年、2022年版では63カ国、2021年、2023年版では64カ国、2024年版では67カ国中の順位。従って、「経営プラクティス」の順位は、毎年ほぼ最下位です。

 

ユニクロの柳井正氏は、2024年8月26日に放送された日本テレビの報道番組で「日本の経営者が変革を恐れ、現状維持に固執している」、「日本人は滅びるのではないか」と発言して大きな話題になりましたが、この調査データを見る限り柳井氏の発言に同意せざるを得ません。

この記事では、変革を恐れず現状維持に固執しない織田信長が、JTCなど大企業の社長になったら組織がどう変わるのか考察します。

 

■この記事を読んで頂きたい人■
・大企業の経営者を目指す若手社員

 

■この記事でわかること■
①織田軍団と他の戦国軍団との違い

②大企業のサラリーマン社長では絶対真似できない織田信長の組織改革とは?
 
40年間の大企業勤務でサラリーマン社長にうんざりした筆者が、大企業のサラリーマン社長では絶対真似できない織田信長の組織改革を解説します。

<自己紹介>

筆者本人(1960年生)

出世競争は早めに降りて体づくりに励む
筋トレ歴17年 ボクシング歴11年

<筆者略歴>
1984年 東京大学工学部建築学科卒業後、ゼネコンに入社
1988年 インフラ企業に転職
2018年 子会社の不動産会社に転籍
2923年 退職

 

      

 目次

織田軍団と他の戦国軍団との違い

長篠の戦の織田軍鉄砲隊(左)と武田騎馬軍団(右)、引用:長浜市立長浜城歴史博物館蔵

織田軍団と他の戦国軍団の違いを表にしました。(下の比較表参照)。

まず、組織の目的(ビジョン)が全く違います。
織田軍の組織の目的は「天下布武※3」であるのに対して、他の戦国軍団は領土内の豪族(地主)たちの地位や利益を守ることでした。

 

※3 「天下布武」とは、かつての通説では「武力で日本を平定する」という意味でした。最近は解釈に多少違いのある諸説が見られますが、この記事の論点とは直接関係が無いので割愛します。

 

そして、組織形態は、組織の目的を反映して対照的なものになっています。

すなわち、織田軍団が機能体で、その他の戦国軍団は共同体です。

その違いは、下の比較表を参照してください(この表は、筆者の記事に何度も登場しますので説明は省きます)。

参考:堺屋太一著『組織の盛衰

次に、武将の評価ですが、従来の戦国軍団では共同体の規範(世襲制と序列主義)に則って古株や名門が取り立てられました。

一方、機能体である織田軍団では、豊臣秀吉、明智光秀、滝川一益など新参者でも能力があれば主要ポジションに登用されました(再掲した下表参照)。

次に兵力と主力部隊の違いです。

従来の戦国軍団の主力兵は、共同体の構成メンバーで、地侍と呼ばれる領内の小地主です。

彼らは半農半兵なので、農繁期は戦えません。

このデメリットを補うため、織田信長は傭兵(銭で雇う兵)※4 を採用しました。

※4 氏素性がはっきしない流れ者が大半を占めており、その中には犯罪者も含まれていたようです。金銭で雇われた傭兵には忠誠心がなく、途中で逃げ出す者が現れるなどのデメリットもありました。

 

その傭兵に鉄砲を習わせ鉄砲隊を編成し、武田騎馬軍団のような騎馬隊を主力部隊とする従来型の軍団に勝利しました。

こぼれ話

オダノミクスが金のかかる戦闘スタイルを支えた?

オダノミクスとは、いわゆる「楽市楽座※5」のことです。

 

※5 「楽市楽座」とは、市場での商取引にかかる税金を免除し、一部の商工業者団体(座)が有していた特権を廃止する規制緩和を目的とした経済政策のことです。オダノミクスは、1980年代のレーガノミクスより、400年以上も前に行われています。

 

この経済政策による経済発展が、傭兵の雇用費用や鉄砲の大量購入資金を賄うための財源を支えました。

 

 

大企業のサラリーマン社長では絶対真似できない織田信長の組織改革とは?

大企業のサラリーマン社長では絶対真似できない織田信長の組織改革とは、半世紀以上も前の成功体験から未だに抜けきれず、だらだらと続けてきた日本固有の運命共同体的組織から企業本来の姿である機能体への改革です。

具体的には次の手順です。

①「一方的な人事異動権」の放棄と引き換えに「解雇規制の緩和」を実現

②ジョブ型(新卒通年採用や中途採用)と成果主義の本格導入

③メンバーシップ型雇用(新卒一括採用、終身雇用、年功序列)の完全廃止

①「一方的な人事異動権」の放棄と引き換えに「解雇規制の緩和」を実現

織田信長のように高邁なビジョンを持った経営者でないと実現はとても無理ですが、これをクリアして、日本の労働市場の流動性を世界水準に引き上げなければ、「成果主義だ!」「ジョブ型だ!」と叫んだところで何も始まりません。

at-will雇用のアメリカでは、原則として解雇(転職)は自由ですし、橘玲著『働き方 2.0vs4.0 不条理な会社人生から自由になれる』によると、ヨーロッパでも金銭解雇をルール化する流れだそうです。

これまでに、日本国内でもこのテーマが議論の対象となったことはありました。

小泉純一郎首相時代の2003年には「規制改革推進3か年計画」が閣議決定され、解雇の金銭解決に関する議論も取り上げられたり、小泉進次郎議員が2024年の自民党総裁選出馬表明の際に、「労働市場の流動性を高めるため」として解雇規制の見直しを含む政策を掲げました。

しかし、残念ながら世間に迎合したマスコミによってあえなく撃沈してしまったことは周知のとおりです。

ところで、整理解雇の4要件※6 が実質的にクリア不可能なのは、企業側が「一方的な人事異動権」を保有しているからです。

 

※6 整理解雇の4要件とは、①人員削減の経営上の必要性、②十分な解雇回避努力、③被解雇者の選定基準と人選の合理性、④整理解雇手続の相当性です。会社が社員を自由に配置転換できるため、特に要件②「十分な解雇回避努力」のクリアは極めて困難です。 参考:メンバーシップ型雇用では整理解雇が難しい当然すぎる理由とは?

 

解雇規制を緩和するためには、会社側が勝手な都合で社員を配置転換できる「一方的な人事異動権」を手放すことが先決です。

なぜなら、社員を勝手に異動させる「権利」と社員を雇い続ける「義務」は、表裏一体だからです。

 

 

②ジョブ型(新卒通年採用や中途採用)と成果主義の本格導入

前項の「解雇規制の緩和」で労働市場が流動化すれば、これで日本企業が運命共同体から機能体に生まれ変わるための前提条件が整います。

豊臣秀吉や明智光秀などのように有能な人は、自分をもっと高く売れる場所を容易に見つけられますし、金銭解雇された人たちも、自分を活かせる場所をまたすぐに見つけられるでしょう。

新卒一括採用で入社したら、原則一生同一会社という働き方では、本当に能力があり、やる気がある人材が共同体化した閉鎖的な世界で飼殺されてしまいます。

運命共同体と化した会社の本質は、小賢しい小心者(成果は上げないが行動評価だけが高い忖度男)が出世する「腐った楽園(橘玲著 『バカが多いのには理由がある』より引用)」です。

本当は誰もがこの閉鎖的な世界を嫌っているのです。

日本の従業員エンゲージメントの低さが、それを物語っています。

話は変わりますが、ジョブ型の新卒通年採用を実現するためには、大学を高専(高等専門学校)のような実践的で専門的な教育機関に変えていく必要があります。

その方が、暇で無意味な日々を送っている日本の大学生も幸せになるはずです。

参考:日本の大学生は卒業さえできればたいして勉強しなくていい本当の理由

③メンバーシップ型雇用(新卒一括採用、終身雇用、年功序列)の完全廃止

ここまで実現できれば、メンバーシップ型雇用(新卒一括採用、終身雇用、年功序列)も自然消滅するでしょう。

筆者の記事では何度も指摘していますが、メンバーシップ型雇用は高度経済成長期(1955年頃から1973年のオイルショックまで)に、人手不足対策として導入されたものです。

終身雇用と年功序列は、労働力を長期にわたって囲い込むのが目的です。

また、新卒一括採用は、右肩上がりの経済成長が当たり前であった当時の先行投資型採用戦略です。

バブル経済が崩壊した1990年代初頭から日本経済は、ほとんど成長していません。

今や、メンバーシップ型雇用は「非効率なワークシェアリング型雇用」と言わざるを得ない状況です。

こぼれ話

超高齢化社会が非効率なメンバーシップ型を崩壊させる?

29.1%(2023.10現在)と過去最高になっている65歳以上の割合は、国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、2040年代初頭には約35%に達します。

これは、日本の人口の3人に1人が純粋な消費者、すなわち生産者という側面をもたない人たちになることを意味しています。

これまで日本では、「企業が倒産して解雇されたら大変」という生産者優先の考え方が支配的でした。

そして、戦後から一貫して、官僚統制による生産者優先の価格設定(適正価格=適正利益+コスト)に国民は洗脳されてきたのです。

しかし、超高齢化社会が到来して純粋な消費者が3人に1人となるこれからの時代は、コストの上昇をこれまでのように価格に転嫁することは困難です。※6

 

※6 日本の高齢者世帯の貯蓄額は一般世帯より高いので問題ないという意見には賛成できません。日本の高齢者世帯の貯蓄額が高いのは、何歳になっても将来が心配で節約に努める高齢者が多いからです。死んだ時が一番お金持ちになっている高齢者も珍しくありません。参考:お金を使い切って死ぬ為に定年前からやるべき4つの取組を経験者が解説

 

要するに、日本企業にとって、非効率なメンバーシップ型の見直しよる人件費削減は避けて通れない道なのです。

 

 

まとめ

大企業のサラリーマン社長では絶対真似できない織田信長の組織改革とは、日本固有の運命共同体的組織から企業本来の姿である機能体への改革です。

具体的には次の手順です。

①「一方的な人事異動権」の放棄と引き換えに「解雇規制の緩和」を実現

②ジョブ型(新卒通年採用や中途採用)と成果主義の本格導入

③メンバーシップ型雇用(新卒一括採用、終身雇用、年功序列)の完全廃止

メンバーシップ型雇用(新卒一括採用、終身雇用、年功序列)を柱とする日本型経営に日本企業がどっぷり漬かってしまっている現状では、確かにこれを実行するのはとても無理だと筆者も感じます。

しかし、織田信長が推進した組織改革の困難さは、この比ではなかったという事実も否めません。

既得権者である旧勢力に幾度となく命を狙われた織田信長は、命がけで改革を断行したと伝えられています(最後は本能寺の変で力尽きましたが)。

こぼれ話

実は、アメリカでも1980年代までは、企業との長期的な関係が一般的でした

フォード社に長年勤めた男性が主人公の映画『グラン・トリノ』や、40年間電話帳会社に勤めた男性が主人公の『マイ・インターン』など、高齢者を主人公にしたアメリカ映画では、「〇〇年間勤めた」という台詞がよく登場します。

長期にわたり真面目に勤めることは、日本と同じく美徳とされていたのです。

しかし、1970年代から日本のメーカーを含む海外企業との競争が激化し、アメリカ企業の業績は徐々に悪化しました。

IBM、コダック、AT&Tなど大企業の大規模なリストラにより、一つの会社で長く働き続け、勤続年数に応じて昇給や昇進が行われる雇用形態は急速に廃れ、成果主義が主流になりました。

時代に合わない日本式経営を続けてきた日本と、流れに任せて結果的に経営環境の変化に対応したアメリカのその後の経済力の違いは歴然としています(下のグラフ参照)。

引用:GDP4位転落 アベノミクスの通信簿だ

参考:新卒一括採用を廃止すべき根本理由と通年採用に移行できない本当の理由