ながら江雪の人生ノート

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新卒一括採用を廃止すべき根本理由と通年採用に移行できない本当の理由

新卒一括採用は、特定の期間に採用を集中させるため、以下に示すいくつかのデメリットが生じることがあります。

・学生と企業間の適性ミスマッチ

・大手企業以外は優秀な人材確保が困難

・ 留学や病気などで、一括採用期間中に応募できない優秀な人材の取りこぼし

しかし、これらは新卒一括採用を廃止すべき根本理由ではありません。

また、通年採用への移行が難しい理由はいくつかあります。

例えば、以下ですが、これらは通年採用に移行できない本当の理由ではありません。

・採用活動の通年化による、採用コストの増や採用担当者の負担増

・入社時期の分散化で、新入社員研修・教育の個別対応が必要

この記事では、他の記事が語らない問題の本質に切り込みます。

 

■この記事を読んで頂きたい人■
・大企業の経営者を目指す若手社員

 

■この記事でわかること■
①大企業が新卒一括採用を廃止すべき根本理由とは?

②大企業が通年採用に移行できない本当の理由とは?
 
何の疑問も抱かず新卒一括採用を続ける大企業に40年間勤務した筆者が、新卒一括採用を廃止すべき根本理由と通年採用に移行できない本当の理由を解説します。

<自己紹介>

筆者本人(1960年生)

出世競争は早めに降りて体づくりに励む
筋トレ歴17年 ボクシング歴11年

<筆者略歴>
1984年 東京大学工学部建築学科卒業後、ゼネコンに入社
1988年 インフラ企業に転職
2018年 子会社の不動産会社に転籍
2923年 退職

 

      

 目次

大企業が新卒一括採用を廃止すべき根本理由とは?

【日本の経済成長率の推移】

引用:図録▽経済成長率の推移(日本)に筆者が加筆

新卒一括採用を廃止すべき根本理由とは、「この制度は、右肩上がりの経済成長を前提として、高度経済成長期(1955年頃から1973年頃)に導入された制度であるため、現在のような経済停滞期では慢性的な人件費押上げ要因となる」からです(上のグラフ参照)。

経済成長が止まった1990年代以降、新卒一括採用された労働力の一部は不活性人材※1 という”滞貨”となっています。

 

※1 不活性人材とは、様々な理由で組織内の適した仕事がなかったり割り振られない状態になっているため、業務に対する意欲やモチベーションが低下している人材を指します。このような人材は、人手不足の中小企業よりも、組織内で埋もれがちな大企業で多く見られると考えられます。

 

 内閣府ではこうした「不活性人材」のことを『雇用保蔵者数(企業が労働者を採用したものの、その労働者に能力に見合った生産を挙げられるだけの業務を任せずに保蔵している数)』と定義し、データとして推計しています。

平成21年の調査では、合計528万人~607万人が雇用保蔵者、すなわち「不活性人材」とされています。

これは、当時の総労働人口約6000万人の約8~10%に相当しますが、大企業などのホワイトカラーに限れば、その比率はこんなものではないでしょう。※2

 

※2 リクルートワークス研究所が発表している報告書の中に、事務系ホワイトカラーの「余剰」に焦点を当てた「労働市場の二極化」に関する研究があるということですが、残念ながら筆者は確認できませんでした。

 

マルチタスクが当然のベンチャー企業や中小企業にくらべると、大企業は人がやたらと多すぎるというのが40年間大企業に勤務した筆者の実感です。

新卒一括採用とは経済成長時代の先行投資型採用であり、経済停滞期には人件費押上げ要因になるという認識が、大企業の経営者にあまり浸透していないのは残念です。

ところで、日本では現在、人手不足が深刻化していますが、実際には労働力人口が減少しているわけではありません(下のグラフ参照)。

引用:労働力人口・就業者数の推移|令和4年版厚生労働白書|厚生労働省

実際に人手不足が深刻なのは中小企業であり、社員規模が1000人を超すような大企業は、人手不足とは言えない状況です(下のグラフ参照)。

出典:リクルートワークス研究所が実施した調査結果(2025年度)を基に筆者が作成

これらのデータから、日本の人手不足問題は少子高齢化だけが原因ではなく、リスクをとって企業成長を目指さない大企業が、先行投資型採用である新卒一括採用で優秀な人材を必要以上に囲い込むことが、日本の人手不足の一因になっていると言わざるを得ません。

なお、日本全国の企業約338万社(2021年6月時点)のうち、中小企業(従業員300人以下)の割合は99.7%、大企業の割合は0.3%となっています。

一方、2023年の民間給与実態統計調査によると、給与所得者6068万人のうち約31%が従業員1000人以上の大企業に勤めています。

ここまでを、以下にまとめます。

新卒一括採用を廃止すべき根本理由とは?

・新卒一括採用は、右肩上がりの経済成長を前提として、高度経済成長期(1955年頃から1973年頃)に導入された制度であるため、現在のような経済停滞期では慢性的な人件費押上げ要因となる

・また、リスクをとって企業成長を目指さない大企業が、先行投資型採用である新卒一括採用によって必要以上に労働力を囲い込むことが、日本の人手不足の一因となっている

参考:大企業(JTC)はロクな仕事も無いくせに社員が多いたった一つの理由?

 

 

大企業が通年採用に移行できない本当の理由とは?

通年採用に移行できない本当の理由とは、下の概念図に示す「先行投資型採用スパイラル」のアリ地獄から抜け出せないからです。

「新卒一括採用」が高度経済成長期に広まった背景には、終身雇用制と年功序列制をさらに組み合わせることで、長期的に安定した労働力を確保する狙いがありました。

なぜなら、高度経済成長期は深刻な人手不足に直面していたからです。

そして、この右肩上がりの経済成長を前提にした社員の大量採用を、少品種大量生産の工業社会で効果的に機能させるには、会社側が自由に仕事を割り振る「一方的な人事異動権」が必須でした(これがメンバーシップ型雇用の本質です)。

この「一方的な人事異動権」という権利は、従業員を雇用し続ける義務を生じさせ、「解雇規制」に繋がります。

具体的には、この権利により、「整理解雇の4要件」の中でも特に「解雇回避努力義務」を満たすことが非常に難しくなっています。

「解雇規制」は、日本の「労働市場の硬直化」を生み、企業は「内部労働市場依存※3に陥ります。

 

※3 内部労働市場依存とは、特定の職種に欠員が出た際に、昇進や異動を通じて内部の従業員で補充し、中途採用による外部労働市場からの補充を避ける人事施策のことです。

 

そして、内部労働市場を維持するために「新卒一括採用」を、また繰り返すことになります。

経済成長が続いている間は、前項で指摘した問題は顕在化しませんでした。

しかし、バブル経済が崩壊した1990年代からは、少しずつ”自覚症状”がではじめ、小泉純一郎元総理の時代には、解雇規制改革が盛り込まれた「規制改革推進3か年計画」が閣議決定されました。

2004年には計画を具体化する動きも見られましたが、労働者保護の観点や生活の安定性への懸念から多くの反対意見が寄せられ、小泉政権下では最終的な実現には至りませんでした。

 

 

まとめ

大企業が新卒一括採用を廃止すべき根本理由とは?

・新卒一括採用は、右肩上がりの経済成長を前提として、高度経済成長期(1955年頃から1973年頃)に導入された制度であるため、現在のような経済停滞期では慢性的な人件費押上げ要因となる

・また、リスクをとって企業成長を目指さない大企業が、先行投資型採用である新卒一括採用によって必要以上に労働力を囲い込むことが、日本の人手不足の一因となっている

大企業が通年採用に移行できない本当の理由とは?

・「先行投資型採用スパイラル」のアリ地獄から抜け出せないから

高度経済成長期すなわち工業社会では、新卒一括採用が支える内部労働市場の仕組みが日本固有の終身雇用制や年功序列型賃金と相性が良く、安定した成長を支える重要な柱でした。

しかし、ポスト工業社会※4 となって久しい現在では、即戦力や新しい専門スキルを持つ人材の外部労働市場からの積極的な調達がますます重要になっています。

 

※4 ポスト工業社会とは、失われた30年の間に、需要の飽和とニーズの多様化・専門化が進み、その変化も加速した社会です。具体的には、2010年代以降のGoogle、Apple、Facebook(現Meta)、Amazonなど巨大IT企業が世界の経済をけん引してきた時代が特にその象徴的な時代です。これに対し、工業社会とは、人口増による内需によってモノをつくれば簡単に売れた少品種大量生産の時代で、日本では概ね1970年代以前の社会を指します。

 

内部労働市場依存の仕組みでは、そのスピード感が失われ、企業の成長は滞り、日本の国際競争力はますます低下していきます。

堺屋太一が著書『知価革命』で、工業社会の終焉と新時代の”姿”を予測してから、40年以上経ってしまいました。

参考:日本の凋落ぶり(世界競争力、時価総額、名目GDP)