
組織の隠ぺい体質は日本に限らず、世界中で見られる問題です。
そのため、多くの国で内部通報制度の整備が進められおり、日本でも公益通報者保護法が2004年に制定され、2006年に施行されました。
日本の公益通報者保護法は、2006年施行後も改正を重ねており、2022年の改正では保護対象を広げるなど保護体制が大幅に強化されました。
しかし、欧米と比較すると、利用率が低く、通報者が報復を恐れる風潮が制度の実効性に影響していると言われています
この記事では、隠ぺい体質に対する最近の管理強化にもかかわらず、企業、行政、教育界、医療分野、警察や検察、スポーツ界などの隠ぺい体質がなぜ解消されないのか、その根本的な理由について解説します。
<自己紹介>

筆者本人(1960年生)
出世競争は早めに降りて体づくりに励む
筋トレ歴18年 ボクシング歴12年
<筆者略歴>
1984年 東京大学工学部建築学科卒業後、ゼネコンに入社
1988年 インフラ企業に転職
2018年 子会社の不動産会社に転籍
2923年 退職
目次
日本の隠ぺい体質に対する管理強化が機能しない2つの根本理由とは?
日本の隠ぺい体質に対する管理強化が機能しない2つの根本理由とは、以下です。
①日本の組織は共同体化しやすく、内部情報を隠ぺいする傾向がある
②世界でも際立って損得勘定に敏感な日本人の性格が内部通報を阻む
以下、それぞれ解説します。
①日本の組織は共同体化しやすく、内部情報を隠ぺいする傾向がある
共同体とは本来自然発生的な集団であり、地域コミュニティや家族、宗教団体などが典型的な例ですが、日本ではあらゆる組織が共同体化しやす傾向にあります。※1
※1 特にメンバーシップ型雇用(新卒一括採用、終身雇用、年功序列)を続ける日本企業は、社員が固定化するため一種の運命共同体となっています。
日本の組織が共同体的な性質を持ちやすい背景には、歴史的に農村社会の影響が大きいと言われています。
また、日本文化の特性である「和を以て貴しとなす」精神が、組織内での対立を避け、調和を優先する傾向を生み出します。
この結果、個人の独立性よりも組織への帰属意識が強まり、組織は共同体となっていきます。
共同体における組織の目標は、居心地の良さの追求であり、そのため結束力と仲間意識が最も重視されます。
そして、共同体の特徴である内部情報の隠ぺいは、この結束力と仲間意識から自然に生まれます。
特に不正や不祥事などは、外部に漏れると共同体メンバー全員が批判と軽蔑を受ける恐れがあるので、絶対に秘密にして内部で対処しようとします。
このような組織では、内部告発者は「裏切り者」となります。
さらに、一度「裏切り者」とレッテルを貼られると、そのレッテルは共同体組織にいる限り消えることはありません。
一方、欧米では内部告発が社会的に正当化されやすく、告発者が英雄視されることも少なくありません。
アメリカやEUでは、多くの企業が内部通報システムを自主的に構築してますが、日本では法的義務の範囲が限定的で、企業側の取り組みが不十分なケースが多いのも企業が共同体化しているからでしょう。
大本営発表の「虚偽の宣伝」も旧日本陸海軍の共同体化による内部情報隠ぺいの一種
日本敗戦の要因の一つが、本来は機能体(特定の目的を達成するためにつくられた、共同体とは対照的な組織)であるべき旧日本陸海軍の共同体化 です。
共同体化の原因は、士官学校や海軍兵学校などの軍人養成専門教育機関が設立されて、軍内部でしか生きていけない職業軍人集団が生まれたためです。
旧日本陸海軍の共同体化は、内部情報の隠ぺいにとどまらず、成功体験への固執※2 や、人事における不適材不適所※3 など、数多くの組織的な欠陥を引き起こしました。
※2 旧日本軍は日露戦争での成功体験に固執し、第二次世界大戦で敗れました。特に、旧陸軍は、白兵戦(至近距離で敵と対峙しながら刀剣、槍、銃剣などの白刃武器を使って戦う近接戦闘)や精神的士気を過剰に重視する傾向があり、新しい戦車戦術の導入が遅れました。また、旧海軍は、「決戦主義」や「大艦巨砲主義」を固守し、航空母艦や航空戦の重要性を軽視していました。
※3 共同体化した旧日本陸海軍では、居心地が悪くなる内部競争が排除されました。そのため、客観的で本人の努力ではどうにもならない基準、具体的には、年次や任官時の成績で序列が決められました。これが、旧日本陸海軍の人事における不適材不適所の原因です。
②世界でも際立って損得勘定に敏感な日本人の性格が内部通報を阻む
日本人が世界でも際立って損得勘定に敏感な民族であることを示すデータは、世界価値観調査(World Survey)のデータです。
世界価値観調査(World Survey)とは、世界各国の人々の価値観や信念、態度を調査する国際的なプロジェクトで、1981年に開始されました。
この調査データに基づいて作成されたのが、下図(イングルハート*1の価値マップ)です。

(注)IVAN IZQUIERDO ELLIOTの画像を基に筆者が作成
縦軸は、上に行くほど「世俗的・合理的価値」を重んじる度合いが高く、下に行くほど「伝統的価値」を重んじる度合いが高くなります。
「世俗的・合理的価値」とは、日常生活や現実世界での物質的、実利的な価値観を指します。
具体的には、財産、地位、名誉、快楽など、現世での成功や幸福を追求する価値観で、一言で言えば「損得勘定」を重んじる価値観です。
また、「伝統的価値」とは、家族の絆、敬老の精神、礼儀と礼節、 地元やコミュニティへの貢献と連帯感、宗教・信仰など社会の安定と人々のアイデンティティに深く関わるものです。
もう一度、再掲した下の価値マップをご覧ください。

(注)IVAN IZQUIERDO ELLIOTの画像を基に筆者が作成
この価値マップが明らかにしたことは、『日本人は、世界でも際立って世俗的かつ合理的な国民である』、分かりやすく言い換えれば『「損得勘定」で生きる国民である』ということです。※4
※4 なお、調査が開始された1981年以来、この傾向は変わりません。
世界でも際立って損得勘定に敏感な日本人が、報復のリスクを伴う内部通報を行うのは稀でしょう。
なぜなら、日本の公益通報者保護法は2022年の改正によって保護体制が大幅に強化されましたが、「法律は法律で、実際の運用とは別物だ」ということぐらい損得勘定に敏感な日本人は見抜いているからです。
※ 以上の内容は、筆者の記事「世界価値観調査から分かる日本人の本性とは?世界でも際立って世俗的?」から一部引用しています。
まとめ
✔日本の隠ぺい体質に対する管理強化が機能しない2つの根本理由とは、以下です。
①日本の組織は共同体化しやすく、内部情報を隠ぺいする傾向がある
②世界でも際立って損得勘定に敏感な日本人の性格が内部通報を阻む
ところで、日本人が企業などの不正発覚より、芸能人の不倫発覚に関心があり、世界的に見て珍しい芸能人の不倫謝罪会見が開かれるのも、日本人の世界でも際立った世俗性と関係があるのかもしれません。
*1:ロナルド・イングルハート(Ronald F. Inglehart)は、アメリカの政治学者。ミシガン大学教授。ポスト物質主義社会の研究や、世界価値観調査に基づく政治意識の研究で知られる。