
日本企業の本社人事部の権限が世界的に見て強いことを示す調査結果を以下に示します。
1.人事部門の役割と権限の比較調査
日米企業を比較したアンケート調査(Jacoby, 2005)によると、日本では特定の職務配置や業績評価において、本社人事部が責任を持つ割合がアメリカよりもはるかに高いことがわかっています。
例えば、管理職の配置に関する責任が本社人事部にあると回答した割合は、日本で57%、アメリカで16%と大きな差があります。
2.Cranet調査
Cranet調査は、国際的な人事ネットワーク「Cranet」が主導する研究で、世界各国の企業における人事管理の実態を調査しています。
Cranet調査2011では、採用や処遇、人員増減に関する責任が他国と比較して日本では人事部門に集中していることが明らかにされています。
この記事を読めば、「なぜ日本企業の本社人事部の権限が他国に比べて強いのか?」そして、「それが引き起こす重大な弊害とは何なのか?」が明らかになります。
②日本企業の本社人事部の世界的に見て強い権限が引き起こす重大な弊害とは?
<自己紹介>

筆者本人(1960年生)
出世競争は早めに降りて体づくりに励む
筋トレ歴18年 ボクシング歴12年
<筆者略歴>
1984年 東京大学工学部建築学科卒業後、ゼネコンに入社
1988年 インフラ企業に転職
2018年 子会社の不動産会社に転籍
2923年 退職
目次
日本企業の本社人事部の権限が世界的に見て強い2つの理由とは?
日本企業の本社人事部の権限が世界的に見て強い2つの理由は、次の2つの日本固有の経営システムに起因します。
①メンバーシップ型雇用(新卒一括採用、終身雇用、年功序列)
②企業別労働組合
以下、それぞれ解説します。
①メンバーシップ型雇用(新卒一括採用、終身雇用、年功序列)に起因する理由
メンバーシップ型雇用を続ける日本企業は、先行投資型採用スパイラルに陥り、内部労働市場に依存せざるを得ません(下図参照)。

先行投資型採用スパイラルの詳細は、筆者記事:新卒一括採用を廃止すべき根本理由と通年採用に移行できない本当の理由に書きましたので省略しますが、要旨は以下の通りです。
・メンバーシップ型雇用の前提となる一方的な人事異動権(企業側の権利)が解雇規制(企業側の雇用義務)を生じさせる。
・その結果、労働市場は硬直化して企業は内部労働市場に依存せざるを得なくなり、新卒一括採用(先行投資型採用)から逃れられない。
以上のように、メンバーシップ型雇用を続ける日本企業にとって、内部労働市場は貴重な経営資源です。
本社人事部は、社員の採用、育成、異動、昇進などを一元管理することで内部労働市場を統制し、その権限を強化してきたのです。
②企業別労働組合に起因する理由
日本企業の労働組合だけが、欧米などの産業別労働組合と違い企業別労働組合です。
これは、メンバーシップ型雇用により会社への帰属意識が強まった結果、労働組合も企業単位での組織化が自然と進んだためです。
産業別労働組合が主流の欧米では、労使交渉の経営者側は産業の代表者であることが一般的です。
例えば、ドイツやフランスなどでは、経営者側として「使用者団体」という組織が交渉を担当します。
これに対して、企業別労働組合が主流である日本では、労使交渉の際、本社人事部が労務管理や雇用条件に関する知識を活かし、経営側の窓口として交渉を調整する重要な役割を担います。
今のように多くの組合が御用組合化※1 する前の、労使関係の良し悪しが経営に大きな影響を与えてた時代から、実質的に労使交渉を担ってきた本社人事部は、その権限を容易に強化することができました。
※1 ソ連崩壊(1991年)に象徴される1990年代初頭の冷戦終結は、日本社会党の本格的な衰退を加速させ、1993年の「55年体制」崩壊のきっかけとなりました。この「55年体制」の崩壊(1993年の非自民連立政権発足)は、日本の労働組合の弱体化に大きな影響を与えました。また、この頃から、本社の抜け目ない人事部が経営陣と結託して、労働組合役員の昇進や昇格における優遇措置を取り、労働組合を懐柔し始めたと考えられます。その結果、労働組合役員が企業側と妥協する立場を取るよう促され、組合の独立性が損なわれる事態となりました。
日本企業の本社人事部の世界的に見て強い権限が引き起こす重大な弊害とは?
日本企業の本社人事部の世界的に見て強い権限が引き起こす重大な弊害とは、本社人事部がその権限の源であるメンバーシップ型雇用の廃止を決して認めない点です。
2000年代後半から2010年代初頭にかけて、「メンバーシップ型雇用は古い」との議論が盛んになりました。
この頃、グローバル競争の激化やIT産業の発展が背景となり、欧米で主流の「ジョブ型雇用」の導入が注目され始めました。
特に2010年代以降、少子高齢化や働き方の多様化が進む中で、メンバーシップ型雇用が時代にそぐわないとの指摘が増えました。※2
※2 著しく低い日本の労働生産性や日本の凋落ぶり(世界競争力、時価総額、名目GDP)の原因の一つが、時代に合わないメンバーシップ型雇用であると筆者は考えます。
しかし、未だに(マイナーチェンジはあるものの)実質的にはメンバーシップ型雇用が続いている要因の一つが、日本企業の本社人事部の世界的に見て強い権限なのです。
参考:なぜ会社はつまらない?時代に合わないメンバーシップ型雇用を解説
まとめ
✔日本企業の本社人事部の権限が世界的に見て強い2つの理由は、次の2つの日本固有の経営システムに起因します。
①メンバーシップ型雇用(新卒一括採用、終身雇用、年功序列)
・メンバーシップ型雇用を続ける日本企業にとって、内部労働市場は貴重な経営資源。
・本社人事部は、社員の採用、育成、異動、昇進などを一元管理することで内部労働市場を統制し、その権限を強化してきた。
②企業別労働組合
・労使関係の良し悪しが経営に大きな影響を与えた時代から、実質的に労使交渉を担ってきた本社人事部は、その権限を容易に強化できた。
✔日本企業の本社人事部の権限が世界的に見て強いことによる重大な弊害とは?
・メンバーシップ型雇用が経営環境に合わなくても、本社人事部がその権限の源であるこの雇用形態の廃止を決して認めない点
ジョブ型雇用になれば、採用は本社人事部ではなく各事業部が行った方が合理的ですし、事業部間の異動も必要なくなります。
また、ジョブ型雇用では、長期間集中して行われる新入社員教育も必要ありません。
要するに、メンバーシップ型雇用を廃止してジョブ型雇用に移行すると、本社人事部の権限が大幅に削られてしまうのです。