
日本企業の評価制度には、主に次の3つの目的があると考えられています。
目的1:報酬に差をつける
目的2:モティベーションを高める
目的3:人材の育成
しかし、冷静に考えてみれば、これらがすべて嘘であることが分かります。
この記事を読めば、その理由や日本企業の評価制度の誰も言わない本当の役割が明らかになります。
②日本企業の評価制度の誰も言わない本当の役割
<自己紹介>

筆者本人(1960年生)
出世競争は早めに降りて体づくりに励む
筋トレ歴18年 ボクシング歴12年
<筆者略歴>
1984年 東京大学工学部建築学科卒業後、ゼネコンに入社
1988年 インフラ企業に転職
2018年 子会社の不動産会社に転籍
2923年 退職
目次
日本企業の評価制度の3つの目的が嘘である理由

①目的1「報酬に差をつける」が嘘である理由
1990年代初頭のバブル経済崩壊以降、日本の経済成長が停滞している(下のグラフ参照)にもかかわらず、日本企業は高度経済成長期に適合したメンバーシップ型雇用(新卒一括採用、終身雇用、年功序列)を維持し続けています。
【日本の経済成長率の推移】

引用:図録▽経済成長率の推移(日本)に筆者が加筆
その結果、「社員の雇用を守る代わりに、賃金は上げない」という人件費抑制の圧力が常に生じています。
実際に、ここ30年間の日本の平均賃金は、ほとんど増えていません(下のグラフ参照)。

引用:主要国の平均賃金(年収)の推移 【西日本新聞me】 (nishinippon.co.jp)
したがって、昇給やボーナスアップの原資は限られており、大変な手間をかけて評価したところで大した報酬の差にはなりません。
ごくわずかな報酬の差をつけるための膨大な手間は、日本企業のブルシット・ジョブの典型例です。
また、バックオフィス(管理部門)の業務の多くは定型業務であり、普通に真面目に取り組めば成果に差がつくことはほとんどありません。
このように構造的に成果に差がでないにもかかわらず報酬に差をつけるのは、明らかに矛盾しています。※1
※1 「成果が同じでも能力に差があるから報酬に差をつける」という反論があるかもしれません。しかし、この反論は、能力に差があるにもかかわらず同じレベルの業務を任せているという、杜撰なマネジメントを認めることに他なりません。あくまで、報酬は成果に応じて支払われるべきで、目標管理シートの出来の良し悪しではありません。参考:大企業(JTC)の目標管理制度|全くムダな実態と機能しない理由とは?
そして、同じ評価制度を全社一律に適用すること自体に無理があり、社員のモティベーションに悪影響を及ぼしている可能性も十分に考えられます。
②目的2「モティベーションを高める」が嘘である理由
評価方法が成果評価ならモチベーションを高めることは可能でしょうが、日本企業の評価制度は能力評価(行動評価を含む)が一般的※2 であるため、モティベーションを高めることは不可能です。
※2 メンバーシップ型の日本企業の働き方は、欧米のジョブ型とは対照的で、個人の責任範囲が曖昧なワークシェアリング型が特徴です。そのため、一部の営業業務などを除き、成果評価が構造的に困難です。
なぜなら、成果評価は変動しますが、能力評価は固定化するからです。
能力評価では、一部の上位グループより相対的に評価が低くなる大多数の標準評価グループのモチベーションは下がります。
また、上位グループにとっても評価は固定化するため大してモティベーション上がらず、仮に評価が下がったらモチベーションは著しく下がってしまいます。
このように、日本企業の評価制度は、モチベーションをむしろ下げていることの方が多いのです。
③目的3「人材の育成」が嘘である理由
確かに新入社員の見習い期間(マイナスの段階から標準レベルになるまでの間)は、人材育成も嘘ではありません。
しかし、その後の人材育成は、評価制度によって行われるのではなく、与えられる仕事の内容や裁量がステージアップすることによって達成されます。
評価の結果で人材を育成できるなんて、冷静に考えれば嘘だと気づきます。
日本企業の評価制度の誰も言わない本当の役割
日本企業の評価制度の誰も言わない本当の役割は、次の2点です。
①共同体化した組織の内部競争の排除
②本社人事部の権限の維持・強化
以下、それぞれ解説します。
①共同体化した組織の内部競争の排除
メンバーシップ型雇用(新卒一括採用、終身雇用、年功序列)が原因で社員が固定化し、共同体化した日本企業では内部競争が排除される傾向があります(下表※3 参照)。
※3 機能体は、共同体とは対照的な組織形態です。企業は本来の機能体であるべきです。ジョブ型の欧米型経営の企業は、一般的に言って機能体です。

参考:堺屋太一著『組織の盛衰』
メンバー同士の競争は居心地の悪い緊張感を引き起こすため、共同体のメンバーが居心地よく過ごすためには、メンバー同士が競争しない環境を整えることが重要です。
みんなが気楽な組織に安住し、収益と権限と地位を分かち合える状態ほど、共同体化した企業の(社長も含めた)メンバーにとって居心地のよいものはありません。
そのため、組織の共同体化が進むと、組織内でメンバーの個人的競争を排除する動きが必ず起こります。
その象徴的な現象とは、人事において抜擢を避け、評価に大きな差をつけないことです。
日本企業の評価制度は、これに一役買っているのです。
具体的には、「全社一律の評価制度」という形式的な公平性を担保した上で、評価する上司の寛大化バイアス※4 や中心化バイアス※5 によって、個人的競争を最小限に抑える役割を日本企業の評価制度は担っているわけです。
※4 寛大化バイアスとは、評価が実際より甘くなる傾向のことです。
※5 中心化バイアスとは、評価を極端な高評価や低評価にしないで、中間点付近に偏らせる傾向のことです。
②本社人事部の権限の維持・強化
年2回の人事評価作業は、単なる社員のパフォーマンス測定だけではなく、本社人事部の存在意義を示す重要な役割を果たしています。
評価シートのマイナーチェンジ※6 も、現場の実態や社員の声を反映するという形をとることで分権的な印象を演出しつつも、中央集権的な権限を維持・強化していると言えます。
※6 評価シートのマイナーチェンジは、評価項目が細分化されるだけで、評価基準の曖昧さは一向に改善されません。ひょっとしたら、上司の意向で評価がどうにでもなるように仕組まれているのかもしれません。(笑)
特に大企業では、このような評価プロセスが、「現場と本社の連携を深め、組織全体の統一性や透明性を高める」といったプロパガンダとして利用されることもあります。
このように、日本企業の評価制度は、本社人事部の権限の維持・強化にも一役買っているのです。
なお、日本企業の本社人事部は、他国と比較して企業内で中心的な役割を果たしており、権限も強い傾向にあります。
詳細は、筆者記事:日本企業の本社人事部の権限が世界的に見て強い理由と重大な弊害とは?をご覧ください。
まとめ
✔日本企業の評価制度の3つの目的が嘘である理由とは?
目的1「報酬に差をつける」が嘘である理由
・慢性的な人件費抑制圧力がかかる日本企業では、昇給やボーナスアップの原資は限られており、大変な手間をかけて評価したところで大した報酬の差にはならない。
・また、報酬は本来、能力ではなく成果に対して支払われるべきだが、日本企業には成果の差が出にくい定型業務も多い。
目的2「モティベーションを高める」が嘘である理由
・成果評価なら変動するのでモチベーションを高められるが、日本企業は能力評価であるため評価結果は固定化し、むしろモチベーションを下げてしまう。
目的3「人材の育成」が嘘である理由
・人材育成は、評価の結果ではなく、与えられる仕事の内容や裁量がステージアップすることによって達成される。
✔日本企業の評価制度の誰も言わない本当の役割は、次の2点です。
①共同体化した組織の内部競争の排除
②本社人事部の権限の維持・強化
Googleでは、従来の評価方法を廃止して、「ノーレイティング」という方式を採用しています。
「ノーレイティング」は、ランキングや点数ではなく、1対1のミーティングなどによるフィードバックを通じて社員の目標達成度や行動プロセスを評価するものです。
この制度によって期待されるメリットは、従業員のモチベーションの向上、信頼関係の構築、そして目標設定に対する納得感の強化です。
一方で、この制度の課題は、上司に高いマネジメント能力が求められることです。
従って、部下に仕事を丸投げする無能な上司が多い日本の大企業では、この方式を導入しても期待する成果を上げることは、まず無理でしょう。
参考:大企業(JTC)には無能な上司がなぜ多いのか?【4つの根深い原因】