
少し古いデータですが、SOMPOリスクマネジメント㈱※1の調査によると、全国紙5紙(朝日・毎日・読売・産経・日経)を対象に2013年から2016年までの「謝罪」と「会見」を含む記事を集計したところ、年間平均で2,234件に達していることがわかりました。
※1 SOMPOリスクマネジメント株式会社は、SOMPOホールディングス傘下の企業で、企業や行政機関向けにリスクマネジメントの総合的な支援を行っている会社
これは世界的に見ても異常に多い件数です。
しかも異常なのは件数だけではありません。
日本の謝罪会見では、事実関係や再発防止策がはっきりせず、深々と頭を下げた後は質問をのらりくらりとかわすだけです。
また、トップがなかなか辞任しないことも世界的に見て異常と言えます。
トップが不祥事の責任を取って即座に辞任することで「組織としての信頼性」を守るっていう文化が根付いている欧米とは大違いです。
しかし、最近では謝罪会見が炎上する騒ぎも増え、この儀式の効果は薄れつつあります。
この記事では、日本で謝罪会見という不思議な儀式が行われる本当の理由と、最近ではこの儀式の効果が薄れてきた原因を探ります。
②謝罪会見という儀式の効果が薄れてきた原因とは?
<自己紹介>

筆者本人(1960年生)
出世競争は早めに降りて体づくりに励む
筋トレ歴18年 ボクシング歴12年
<筆者略歴>
1984年 東京大学工学部建築学科卒業後、ゼネコンに入社
1988年 インフラ企業に転職
2018年 子会社の不動産会社に転籍
2923年 退職
目次
日本で謝罪会見という儀式が行われる理由とは?
山本七平※2 は、日本社会における謝罪の機能と責任の取り方に関して、鋭く洞察しています。
※2 1921年生まれの日本の評論家・作家・思想家。 代表作は『「空気」の研究』や『日本人とユダヤ人』(イザヤ・ベンダサン名義)。 日本社会の「空気」や「責任の曖昧さ」など、日本人の思考や行動のクセを鋭く分析したことで知られてる。
彼は、イザヤ・ベンダサン名義の著書『日本教について』の中で、日本には「謝る=責任の解除」という独特な社会的ルールが存在すると指摘しています。
つまり、日本社会では、謝罪は責任を取る行為ではなく、責任を「終わらせる」儀式になっており、「謝った=もう済んだこと」とされがちで、その後の責任追及や再発防止策が曖昧になるということです。
例えば、企業の不祥事や政治家の失言で「深くお詫び申し上げます」と頭を下げる光景はよく見ますが、その後は責任の所在や再発防止策があいまいなままで、気づけば忘れられてしまうことがほとんどです。
山本は、こうした「謝れば済む」という文化が、責任の所在を曖昧にし、構造的な問題の温存につながると批判しています。
謝罪会見という儀式の効果が薄れてきた原因とは?
最近は、謝罪会見がかえって炎上の原因になるなど、謝罪会見の儀式的な効果が薄れてきました。
これは、SNSの普及によってキャンセルカルチャーが広まったことが原因です。
キャンセルカルチャーとは、著名人や企業が過去の発言や行動をきっかけに、SNSなどで批判され、社会的に排除される動きを指します。
例えば、差別的な発言など不適切な行動が発覚すると、ネット上で炎上して不買運動や契約解除、番組降板などにつながることもあります。
もともとはアメリカのSNS文化から広まったもので、「社会的責任を問う手段」として使われることもある一方、行き過ぎると集団による過剰な制裁になってしまうこともあり、賛否が分かれています。
日本でもネット炎上の件数は年々増加しており、キャンセルカルチャーが徐々に定着しつつあります。
シエンプレ株式会社とデジタル・クライシス総合研究所が共同発表した「デジタル・クライシス白書2025」によると、2024年の炎上件数は1,225件に上り、ここ数年と比べてもかなり高い水準となっています。
このように、山本七平が看破した「謝れば責任が解除される」という日本的ルールは、キャンセルカルチャーの台頭によって揺らぎ始めています。
以前は「形だけの謝罪」で済んでいたようなケースでも、今では謝罪の中身や誠意、さらにその後の行動の変化まで厳しくチェックされるようになっています。
特にSNSの普及によって、謝罪が公開され、検証され、拡散されるようになったことで、単なる「頭を下げる」だけでは済まされない「空気」が強まっています。
つまり、謝罪が責任の解除手段ではなく、責任の始まりとして機能し始めてるとも言えます。
これは、「グローバルな透明性への圧力」という風向きの変化によって、謝罪に対する日本の「場の空気」変わり始めたということです。
キャンセルカルチャーの背景は、世界的に広まったリベラリズム?
キャンセルカルチャーには「社会的弱者が強者に対して一矢報いる」という側面があると分析されています。
要するに、格差拡大によって生まれた社会的弱者層が、権力者や有名人を「引きずり下ろす」ことで、溜飲を下げる(心理的解放感を得る)のです。
そして、格差拡大は、橘玲氏など多くが指摘するように、世界的に広まったリベラルな生き方が引き起こしました。
なぜなら、リベラルな生き方とは、地縁や血縁など「共同体」から自由になり、自分らしく生きる一方で、その結果や責任をすべて自分で引き受ける自己責任の生き方だからです。
まとめ
✔日本で謝罪会見という儀式が行われる理由とは?
・山本七平が指摘するように、日本には「謝る=責任の解除」という独特な社会的ルールが存在しているから
✔謝罪会見という儀式の効果が薄れてきた原因とは?
・SNSの普及によってキャンセルカルチャーが広まったことが原因
この勢いでキャンセルカルチャーが進めば、松本仁志や中居正広のように謝罪会見を開くことなく、そのまま排除される(引退や活動休止に追い込まれる)ケースが増えるでしょう。
また、学歴詐称疑惑のあった伊東市の田久保眞紀前市長や、「ラブホ問題」で話題になった前橋市の小川晶市長も、キャンセルカルチャーへの抵抗むなしく排除されました。
キャンセルカルチャーには社会的な正義感や差別・不正への是正機能もありますが、事実関係の確認が不十分なまま排除が進むリスクも指摘されています。