「この坪数では必要な用途を全て網羅するのはとても無理😞」
「なんかいい解決策はないものか?」
こんなお悩み解決します。
今年(2023)定年退職を契機に「終の棲家」を新築した筆者が、小さな家の設計のコツを設計者目線で解説します。
<筆者略歴>
1984年 東京大学工学部建築学科卒業後、ゼネコンに入社
1988年 インフラ企業に転職し、主に大規模遊休地の不動産開発に携わる|分譲マンション開発(単独開発の他、大手不動産会社と共同開発)、戸建て分譲地開発(大手ハウスメーカー建築条件付き分譲地)を多数経験
2018年 子会社の不動産会社に転籍
2023年 退職
<資格>
一級建築士(管理建築士)
目次
「体系」という概念
住宅設計をする上で基本的なことを先ずお話ししましょう。
住宅設計とは機能の算術的総和ではなく、出発すべきは常に全体からと言うことです。
算術的総和の設計は、例えばホテルです。○○㎡の客室○○室、△△㎡の客室△△室、〇〇㎡の宴会場....〇〇㎡のラウンジ等々。
先ず機能ごとの設計条件が決まっておりその総和が全体になります(当然、総延べ床面積の縛りもありますので最終的には調整という過程はありますが。)。
下図がそのイメージ図です。ある機能を抜き出せばその分全体は小さくなります。
一方、住宅の場合は、〇坪の敷地に床面積〇坪ぐらいで〇人が暮らす家という全体がまず先にあってその全体の中に機能同士の関係性をつくりあげていきます。
下図がそのイメージ図です。左には4つの機能と4つのスペースですが、右は4つの機能を3つのスペースで成立させています。
「体系」の概念とは、「常に全体があり、全体は個の算術的総和ではない」ということであり、住宅設計に応用できる概念です。
補足のために、丸山圭三郎*1著「ソシュール*2の思想」から抜粋します。
少々突飛な例かもしれないが、箱の中に入っている饅頭と、同じ大きさの箱の中に押し込められている同じ数の風船のイメージを考えてみよう。
その風船はただの風船ではなくて、圧搾空気が入っているものと仮定する。
さて、饅頭の場合は、その中から一つ取り出して箱の外においても、当然そこには空隙が残されるだけで箱の中の他の関係は変わらない。
箱の外に取り出した饅頭自体も一定の大きさ、一定の実体を保っているであろう。
ところが、技術的に可能かどうかはさておき、圧搾空気をつめた風船の場合は、箱の中でしか、また他の風船との圧力関係においてしか、その大きさはない。
もしその中の風船を一つ外に出すと、当然パンクして存在しなくなってしまう。
また、残した穴もそのままであるはずはなく、緊張関係におかれてひしめき合っていた他の風船が全部ふくれ上がってたちまち空隙を埋めてしまうであろう。
これがソシュールが考えていた体系であり、(以下省略)
設計事例
①玄関とLDKの共用化
外部の大谷石のデッキがそのまま内部(玄関)に繋がります。
右側の観音扉の中は靴などの収納スペースです。
椅子に座って靴を履き替えます。
玄関は外履きと内履きの区別があいまいなスペースです。
また、玄関とLDKの区分もあいまいです。
②トイレ動線と洗面スペースの共用化
左がトイレ、右が洗面台です。
洗面スペースとトイレ動線を共有スペースにしています。
トイレの扉は内開きです。
入れ子構造なのでトイレのプライバシーが守れます。
③階段室と読書用ヌックの共用化
階段室を利用して読書用スペースをつくりました。
④2階トイレ動線とWICの共用化
右に見える扉が2階のトイレです。
WIC(ウォークインクローゼット)の中にあります。
1階と同様に入れ子構造なのでトイレのプライバシーが守れます。
⑤寝室(妻)と書斎とテレビ室の共用化
⑥寝室(筆者)とギャラリーの共用化
まとめに替えて~フィリップ・ジョンソン*3の言葉
箴言1「建築家はワンルームの建築によって記憶される。」
フィリップ・ジョンソン 「ガラスの家」
ミース・ファン・デル・ローエ 「ファンズワース邸」
ル・コルビュジェ 「休暇小屋」
清家清 「私の家」
が思い浮かびます。
参考:グラスハウス:フィリップ・ジョンソンのガラスの家 | Houzz (ハウズ)
箴言2「独創的な建物をつくるよりも良い建物をつくる方がはるかに良いことだ。」
よい建物とは、食事でいえば毎日食べても飽きない味噌汁、ぬかずけ、納豆など自然が味をつけたものです。
人間が味をつけたいわゆるグルメメニューの味は分かりやすく、すぐ違うものを食べたくなります。
車と一緒で意図したデザインは飽きが来ます。
箴言3「もし住宅をうまく機能させるためのやりくりが美的な創意にまさってしまったとしたら、
その結果として生ずるものはもはや建築ではありません。
それは単に有用なものを寄せ集めただけのもに過ぎないのです。」
単一な機能を持たせスペースの寄せ集めでは魅力的な空間はできません。
スペースの境界はその時々の機能の関係性で決まる空間づくりが、住み手の生き方の変化に対応できる生きた建築だと思います。
この考え方を最大限活かせるのが小さな家の設計です。