建築学科は工学部の中でも花形学科の一つで、他の学科にくらべると偏差値も比較的高い人気学科です。
しかし、学科のイメージとは裏腹に卒業後の就職は、いろんな意味でなかなか厳しいものがあります。
建築に対する相当熱い気持ちを持った人以外は、筆者の記事を読んだ上で、よく考えて決めてください。
②東大理Ⅰの進振りで建築学科を考えている東大生とその両親
②建築学科は選ばない方がよい3つの理由
工学部建築学科を卒業した筆者が、建築学科の就職事情と建築学科は選ばない方よい3つの理由についてを解説します。
<筆者略歴>
1984年 東京大学工学部建築学科卒業後、ゼネコンに入社
1988年 インフラ企業に転職
2018年 子会社の不動産会社に転籍
2023年 退職
<資格>
一級建築士(管理建築士)
目次
建築学科は選ばない方がよい3つの理由
①就職先の選択肢が少ない
就職先を分類しますと、下記の4つの選択肢しかありません。
①ゼネコン
②設計事務所(組織系、アトリエ系)
③公務員(役所、大学に残る)
④その他(インフラ企業、不動産会社、ハウスメーカーなど)
しかも、建築が主流派で出世が可能な就職先は、仕事がきついゼネコンと設計事務所だけです。
役所は、働き甲斐は全くありませんが、しっかり休みがとれて定時退社なので、人生を趣味の世界で楽しみたい方には最適な選択です。
また、大学に残って教授を目指す選択もありますが、レアケースなので説明は割愛します。
その他(インフラ企業、不動産会社、ハウスメーカーなど)の就職先については、後段で説明します。
②ゼネコンや設計事務所は大手でも労働条件はキツイ
建築が主流派で出世が可能な就職先であるゼネコンと設計事務所は、大手でもブラックです。
ゼネコンの出世ルートは、建築現場たたき上げで、設計は傍流です。
入社後、半年ほどの研修を設計部などで受け、その後建築現場に配属されて現場所長を目指します。
現場所長を経て営業的な仕事もこなし、忖度なども含めて幹部の覚えめでたければ出世コースに乗ります。
いずれにしても先ず、肉体的にも精神的にもそうとうキツイ現場監督時代を耐え抜かないと先はありません。
精神的または肉体的な病気で脱落する人は多数います。
筆者の経験では、残業時間100時間越えは当たり前で、建物の竣工前など月2日しか休みが無い時期もありました。
筆者がゼネコン建築現場で働いていたのは35年ほど前になりますが、2021年には清水建設社員が自殺しており(清水建設社員が過労自殺 自ら勤務時間を過少申告、時短目標が影響か:朝日新聞デジタル (asahi.com))、状況はさほど変わっていません。
組織系設計事務所も請け負った設計料で適正利益を出すには、キツイ労働にならざるを得ません。
設計事務所の原価は人件費と外注費です。
外注費を減らして所員一人ひとりが、いかに多くの仕事をこなすかが利益につながりますので、休日返上での仕事も常態化しています。
また、有名建築家を目指してアトリエ系設計事務所に就職するのは、リスクが大きす過ぎますので、「一生飯が食えなくても建築設計ができれば本望です」という人だけにしてください。
場合によっては、一生家族を持てないかもしれません。
なお、ゼネコンの設計部で働きたい方は、大学院を卒業しないと採用されません。
ただ、ゼネコンの設計業務は建物コストの制約がかなり厳しく、序列が建築部より下なので建築現場サイドからの注文がうるさく、純粋に建築設計が好きと言うだけでは勤まりません。
③その他の企業では建築は非主流派
ゼネコンや設計事務所以外の民間の就職先としては、インフラ企業、不動産会社、ハウスメーカーが考えられますが、全て事務系エリートが会社を牛耳っています。
建築系は「建築屋」と呼ばれてインハウスエンジニア的な扱いを受けます。
特にインフラ企業では、技術系統のヒエラルキーも大学時代に見下していた土木や電気、機械などより序列が下になってしまします。
建築は弱小民族(マイノリティ)であり、人事では差別的な扱いを受けることもあります。
まとめ
建築学科新卒の就職は厳しい3つの理由です。
①就職先の選択肢が少ない
②ゼネコンや設計事務所は大手でも労働条件はキツイ
③その他の企業では建築は非主流派
各種就活サイトの記事は、実態を知らない職業ライターが書いた記事がほとんどです。
経験者である筆者の記事を参考にして、慎重に将来を左右する学科を選択してください。
建築学科を出てよかったこともあります
退職前に「終の棲家」を新築しました。
大学で建築を学んでいなければ、有名ハウスメーカーのブランドに騙されて「規格間取り、プレファブ、石油化学製品の安い建材」で家を建てていました。
有名ハウスメーカーは、多額の広告宣伝費や本社費を賄うため大量生産で工事原価を抑えています。
筆者自邸(終の棲家)