「就職先としてゼネコンは3K職場できつそう」
「インフラ企業も建築系の求人あるけど、どうなんでしょうか?」
「仕事の内容は違うんでしょうか?」
以下の記事でこんな疑問にお答えしますが、最初に企業の立場の違いをご説明します。
・ゼネコンは請負サイド
・インフラ企業は発注者サイド
ゼネコンにとってインフラ企業はクライアントです。
根本的な違いですので、これを理解したうえで以下の記事をご覧ください。
建築学科学部卒でゼネコンとインフラ企業の双方で勤務経験のある筆者が、建築学科の就活先|ゼネコンとインフラ企業の違いについて解説します。
<筆者略歴>
1984年 東京大学工学部建築学科卒業後、ゼネコンに入社
1988年 インフラ企業に転職
2018年 子会社の不動産会社に転籍
2023年 退職
<資格>
一級建築士(管理建築士)
目次
「機能体」と「共同体」とは?
ゼネコンとインフラ企業の違いを説明する前に、説明に必要な概念である「機能体」と「共同体」について説明します。
「機能体」と「共同体」の違いを、堺屋太一著「組織の盛衰」を参考にして以下の表にまとめました。
一言で言うと、「機能体」は何らかの目的を達成するための目的達成組織であり、「共同体」は存続自体が目的の居心地追求組織です。
本来、すべての企業は利益を生むことを目的とした組織であり「機能体」のはずですが、インフラ企業のように一部地域の市場を独占し外部と競争が生じない恵まれた企業は「共同体」化しています。
就活サイトでは分からないゼネコンとインフラ企業の違い
以下の表にゼネコンとインフラ企業の違いをまとめました。
上から順に解説します。
①組織の性格
ゼネコンとインフラ企業は、真逆の企業文化を持つ業種で、全く似て非なるものです。
その違いの根本原因が、前項で説明した「機能体」と「共同体」の違いです。
「共同体」であるインフラ企業は、他社との競争が少ないため社員の意識は内に向かい、世間とはかけ離れた自分たちだけの規範やルールがつくられています。
「共同体」は結束力や仲間意識を重要視するため、人事評価も個人の業績や能力より、忖度や空気を読む力あるいは「がんばり」などに注目する情意評価です。
情意評価とは、評価者の好き嫌いなど主観でどうにでもなるいい加減な評価方法です。
②利益の源泉
ゼネコンの利益の源泉は、現場の創意工夫と努力です。
ですから高学歴で優秀な人達がヘルメット被って現場で働いている訳です。
インフラ企業は、非現業(ホワイトカラー)の管理力が利益の源泉です。
インフラ企業の現場の人たち(現業=ブルーカラー)は、マニュアル通りか、分からない場合は管理部門(ホワイトカラー)の指示をいちいち仰ぐことになります。
現場の勝手な創意工夫は厳禁だからです。
理由は、万が一何か問題が起きた場合、社会的な影響が大きく(マスコミに取り上げられる可能性も高く)、現場まかせでは対処が困難だからです。
インフラ企業は生活基盤を支えていることから、事故があった場合は管理部門の管理責任が強く問われる業種です。
従って、経営幹部のいざという時の責任逃れを目的とした、コスト意識無き安全管理でムダな仕事を量産しています。
管理部管理課?
ゼネコンにとって管理部管理課のイメージは、メンタルをやられて仕事ができなくなった人のたまり場です。
一方、インフラ企業では、有能な人達を集めた司令塔のイメージです。
③経営幹部候補の選び方
ゼネコンは、学歴や学閥の影響もありますが、基本的には入社後の業務実績や人事評価で選抜されていきます。
最初はスペシャリストで、出世するに従ってジェネラリストになるパターンです。
一方、インフラ企業の場合は、入社時に学歴、性別、権力者の好き嫌いなどで選別する「選別主義」によって選ばれ、最初からジェネラリストの立ち場でキャリアパスを進んで行きます。
④権限の所在
ゼネコンは、利益の源泉が現場力であることから、工事部隊(ライン部門)が力を握っています。
インフラ企業は、利益の源泉が管理力であることから、管理部門(スタッフ部門)が力を握っています。
特に日本の最近の過剰なコンプライアンスによりスタッフ部門の力は増大しています。
⑤仕事の進め方
「機能体」であるゼネコンは、請負代金より工事原価等を出来るだけ下げて利益を最大化するという目的に向かって邁進するのみです。
そこに、お役所仕事のような官僚的形式主義が入り込む隙はありません。
一方、「共同体」であるインフラ企業は、他者との競争がないため「選別主義」で選ばれた無能な幹部でも仕事がまわっていくため、仕事のやり方がいたって官僚的(上から目線で形式的)です。
⑥主力系統
ゼネコンは、建築系統が主力である数少ない業種の一つです。
建築系統が主力であるということは、優秀な建築系統の社員がゴロゴロしているといことでもあり出世競争は大変です。
一方、管理力が重要視されるインフラ企業は、事務系統が主力で特に法学部系統が幹部候補です。
建築系統は、言ってみればオマケ的な存在であり、個人的にどんなに優秀でも役員クラスへの出世はほぼ不可能です。
ただ、給与レベルや福利厚生などの基礎的な待遇面は当然どの系統も同じですので、一般的に見れば恵まれています。
最初から出世に関しては問題外でも、割り切ってしまえば幸せなサラリーマン生活を送ることは可能です。
⑦社員の裁量
ゼネコンは現場力が命ですので、当然社員の裁量は大きく、責任もありますがその分仕事のやりがいもあります。
一方、インフラ企業は全くと言っていいほど個人の裁量はありません。
コンプライアンスがうるさい昨今は特に上司のマイクロマネジメントが厳しく、全て管理されます。
過度な社員管理は、モチベーションを著しく低下させ、若手社員の成長も期待できません。
⑧ムダな仕事
ゼネコンは、全員スぺシャリスの「機能体」かつ社員個人に裁量があることから、余計な業務説明や認識の違いによる手戻り、ムダな会議などはほとんどありません。
一方、インフラ企業は、業務経験・知識の無い少数のジェネラリストが権力を持つため、本来は必要ない業務説明やムダな検討作業が多発します。
また、集団無責任体質や「一致団結」主義のために頻繁に開催される各種会議、経営陣の責任逃れのための過剰なコンプライアンスなどムダな仕事の例は枚挙にいとまがありません。
⑨労働時間
ゼネコンの特に工事現場は、労働時間(拘束時間)が非常に長い職場で、働き方改革がなかなか進まないのが実情です。
構造的な原因は、建物建設が一品受注生産でしかも機械化できない部分が多いため、各界の技術の進歩を活かせないからです。
当然、天候にも工期は左右されます。
また、慢性的で深刻な作業員の人手不足で工事も順調に進まず、現場監督の労働時間が減る要素はありません。
一方、インフラ企業の業務は、決められたことを決まったように行うだけで、イレギュラーなことはあまり起こりませんので定時退社が基本です。
⑩仕事の忙しさ
ゼネコンは、これまでの説明でも触れましたが、屋外で生産する一品受注生産のため、なかなか予定通りに進まないことが多く、常に予定変更に追われ多忙です。
また、請負業のため発注者の都合に対応することも多忙の原因になります。
一方、インフラ企業は、他社との競争はそれほどなく想定される需要に対応するだけなのでマイペースで仕事を進められます。
また、事故や不祥事など問題が起こらなければ、非現業(ホワイトカラー)の実質的な出番はありません。
何かマズイことが起こると社外対応や現状把握、原因分析、再発防止策や対策会議など非現業部門もにわかに活気づきます。
非現業の仕事は、管理と言う名の「待機」が業務で、平時はムダな手続き業務や、やたらに長い会議で暇をつぶしているだけです。
まとめ
ゼネコンとインフラ企業は、真逆の企業文化を持つので、どちらに就職するかによってサラリーマン人生がまったく変わってきます。
建築学科を卒業する人で、どうしても企業の役員クラスの出世を目指したい方は、ゼネコンへの就職がよいでしょう。
逆に出世に興味が無く、のんきなサラリーマン人生を謳歌したい人は、インフラ企業をおすすめします。
しっかり稼ぎつつ、完全週休2日で年休も完全消化かつ定時退社で、趣味などの世界に別の居場所をつくって充実した現役時代を送れば、その延長で定年後も孤独や不安に陥ることはありません。
筆者は、後者の人生を送りましたが、仕事のやりがいの無さには本当に辟易したのも事実です。
ただ、ゼネコンのままの人生でしたら、間違いなくこの肉体は手にはいらず浮き輪肉をもてあましていたことでしょう。
難しい判断になりますので、じっくり考えて選択してください。
<自己紹介>
筆者本人(1960年生 2023.11撮影)
筋トレ歴16年 ボクシング歴10年
<その他の趣味遍歴>
テニス、卓球、SUP、スポーツクラブ通い、楽器演奏(クラシックギター、ピアノ)、ガーデニング、洋ラン栽培、料理(イタリアン、フレンチ)、スコッチ蒐集とテイスティング、陶芸など