ながら江雪の人生ノート

現役サラリーマンと定年シニアのお悩み解決

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ムダな安心安全|リスクとコストを比較できない大企業|完璧主義の理由

「以前、”絶対笑ってはいけない”っていうお笑い番組あったよねぇ」

「うちの会社は、”絶対ミスをしてはいけない”っていうお笑い企業🤣」

「内部監査で引っかかると大変」

「小さなミスでもみんな大騒ぎだ」

「単なる人為的ミスだから、完璧な再発防止策なんてありませんよ😩」

「なんで、小さなどうでもいいミスでもだめなの?」

こんな疑問にお答えします。

■この記事を読んで頂きたい人■
・ミスにうるさい大企業にお勤めの方

 

■この記事でわかること■
①日本と欧米「安全とリスク」考え方の違いとその理由

②大企業の完璧主義~本当の4つの理由

③大企業の完璧主義~ムダと危険性
 
40年のサラーリーマン人生をミスにうるさい大企業で過ごし、今年(2023年)退職した筆者が、リスクとコストを比較できない大企業のムダな安心安全と完璧主義の理由について解説します。

<自己紹介>

筆者本人(1960年生 23.11撮影)
筋トレ歴16年 ボクシング歴10年

<筆者略歴>
1984年 東京大学工学部建築学科卒業後、ゼネコンに入社
1988年 インフラ企業に転職 
2018年 子会社の不動産会社に転籍
2023年 退職

 

      

 目次

日本と欧米「安全とリスク」考え方の違いと理由

①日本と欧米の「安全とリスク」の違い

元明治大学理工学部教授 向殿政男*1氏の記事から引用します。

「リスク」は次の式で表すことができる。

 リスク=危害(損失)の発生確率×危害(損失)のひどさ

上の式に「リスクがない」を意味するためには、「危害(損失)の発生確率」を0にするか、「危害(損失)のひどさ」を0にする必要がある。

しかし現実的に、どちらも0にすることは不可能であると考える。

これらを0にするためには、利益を与えてくれる「危険源」に近づかないことを意味する。
つまり「安全」は現実的には存在しないことになる。

「リスク」を考える上で、リスク0の安全を「絶対安全」と呼ぶ。

日本は、「絶対安全」が「安全」だと考えている。

一方、外国ではリスクの概念があるため、リスクを0にすることはできないと知っている。
そのため外国では、「安全」とは「限りなくリスクを0に近づけた状態」と考えている。
つまり、「安全」は「限りなくリスクを0に近づけた状態」と考えた方が論理的であり現実的に安全を確保することができる。

※引用文の太字は筆者による

欧米では非現実的な「絶対安全」を求めるのではなく、ある程度のリスクを受け入れたうえで、リスクとコストを比較検討するという社会的合意が形成されています。

そのため実現不可能な完璧主義にこだわり、安全性の水準が無制限にエスカレートし、コストも際限なく膨れ上がるということもありません。

②日本と欧米で考え方が違う理由

欧米人の「人間は必ず過ちを犯す」という基本認識は、その宗教感から理解できます。

「最後の審判」で神の前に立つ人間は、何らかの過ちを犯した罪深い人間です。

一神教の欧米では、人間の行いがリスク0という発想はありません。

一方、多神教の日本では人間臭い「多くの神」と一緒に生きてきたために、「皆でがんばれば絶対安全、リスク0」という不遜な考えも生まれるのでしょう。

「絶対安全、リスク0」なんて、まさに「神」への挑戦ですね(笑)

大企業の完璧主義~本当の理由

実は「ヒューマンエラー0は無理で、絶対安全は無理」なことぐらい企業も分かっています。

ではなぜ完璧主義は、際限なくエスカレートするのでしょうか?

以下、理由をご説明します。

①トップの保身目的のため

何か事が起こった時に、「万全の対策を取っていたが、これは想定外」というための一種の保険です。

②新たな危険性を発見すると評価されるから

今まで気づかれなかった新たな危険性を発見すると「さすが」ということになります。

新たな危険性の指摘に創造性?を発揮するというムダな習慣です。

新たに発見した危険性は、現場不在の机上の空論で、意味がないことは言うに及びません。

③安全管理で飯を食う人たちのため

マスコミに叩かれない程度の適当な事故が、ちょくちょく起こった方がよい人たちがいます。 

安全管理で給料をもらっている職能スタッフたちです。

本当に事故が起こらなくなったら、仕事が減り、部署の勢力が縮小してしまいます。

完璧主義で対策をエスカレートさせることで活躍できるのです。

④「一致団結」のいいネタになるから

「再発防止対策推進会議」なんていう全社的な大会議を開催して、社長や役員が偉そうに説教を始めます。

入社当初からジェネラリストの社長や役員は、たまにセレモニーで現場を見て回るだけで、本当は現場の実体を全く知りません。

しかし、こういったムダなセレモニーが大企業では重要なのです。

「安全の徹底に向け、全社一丸」これが必要なのです。

ちなみに大会議での社長や役員の講話は、だれも聞いていませんし聞いていても忘れます。

こぼれ話

本社の元安全総括副社長が、子会社の社長になった途端、その子会社で事故が急増

 

事故が起こると他人事のように叱るだけで、当事者意識がないため、社員の信頼が全く得られていなかった。

親会社の意識が抜けず、子会社の社員との一体感が全くない。

本人は、そういったことが理解できないまま退任させられました。

 

 

大企業の完璧主義~ムダと危険性

①何でもかんでも「再発防止策」のムダ

どんな些細な事故でも再発防止対策が必要です。

皆が本音では、必要ないと分かっていても作成せざるを得ない対策のための対策です。

単なるヒューマンエラーの対策を無理につくると大変なムダが生じます。

図面のメール送信ミスを犯したために、「上司立会いの下でファックス」なんていうとんでもないムダな再発防止対策もありました。

おまけにファックスでは数字がよく見えず、何度もファックスが必要というムダのおまけ付きです。

完璧主義と再発防止策のムダは、切っても切れない間柄です。

こぼれ話

掃除のおばさんの転倒は単に歳のせいなのに

こんな事故も再発防止策が必要でした。
対策は忘れましたが、笑いが込み上げてきたことだけは覚えています。

②ホワイトカラー主導の再発防止策の危険性

現場を知らないホワイトカラー主導の再発防止では、理論は立派でも実際は実施が困難でかえって危険なこともあります。

問題点は2点あります。

①ホワイトカラーがつくる再発防止策は、現場を知らない役員など会社幹部への説明が容易であることが優先されることがある

②事故を起こした手前、現場サイドがその対策の有効性に対して反論できないことがある

事故を起こすと、ホワイトカラーが作った無理な再発防止策で、事故の再発を防がなければならないこともあります。

まとめ

日本と欧米「安全とリスク」考え方の違いとその理由です。

欧米では、「人は過ちを犯す」という宗教観からくる基本認識に基づいて、ある程度のリスクを受け入れたうえで、リスクとコストを比較検討するという社会的合意が形成されています。

 

日本は、「絶対安全」が「安全」であり、そのため実現不可能な完璧主義にこだわり、安全性の水準が無制限にエスカレートし、コストも際限なく膨れ上がります。

大企業の完璧主義~本当の4つの理由です。

トップの保身目的のため

新たな危険性を発見すると評価されるから

安全管理で飯を食う人たちのため

「一致団結」のいいネタになるから

大企業の完璧主義~ムダと危険性です。

何でもかんでも「再発防止策」のムダ

現場を知らないホワイトカラー主導の再発防止策の危険性

 

 

*1:明治大学大学院工学研究科電気工学専攻博士課程修了。工学博士。明治大学理工学部教授を経て、現在、明治大学名誉教授。「安全学」のエキスパートとして、機械安全、製品安全、労働安全、消費者安全などの研究に従事。官公庁の審議委員なども多数務めている。