ながら江雪の人生ノート

現役サラリーマンと定年シニアのお悩み解決

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日本企業の過剰なコンプライアンス【過剰になる理由と弊害】

「取扱い説明書、内容も文字も細かいなぁ😩」

「これじゃぁ、読む気にもならない」

「何でいつも、どうでもいいことが細かく書いてあるんだ?」

こんな疑問にお答えします。

■この記事を読んで頂きたい人■
・最近の過剰コンプライアンスにうんざりしている人
 
 
■この記事でわかること■
①日本企業のコンプライアンスが過剰になる2つの理由

②過剰なコンプライアンスによる3つの弊害

 

今年(2023年)コンプライアンスにうるさい伝統的大企業での40年間のサラリーマン人生を終え退職した筆者が、日本企業の過剰なコンプライアンスの理由と弊害について解説します。

<自己紹介>

筆者本人(1960年生 2023.11撮影)
筋トレ歴16年 ボクシング歴10年

<筆者略歴>
1984年 東京大学工学部建築学科卒業後、ゼネコンに入社
1988年 インフラ企業に転職
2018年 子会社の不動産会社に転籍
2023年 退職

 

      

 目次

コンプライアンス~過剰になる2つの理由

①「消費者側」の問題~他人に非寛容な日本社会

2012年から始まった「世界幸福度調査」で、日本は毎年50位前後で推移しています。

引用記事:【世界幸福度ランキング】日本の幸福度 朝日新聞デジタル

これは、先進国の中では最低レベルです。

主要な原因の一つが「他者への寛容度」の低さだと指摘されています。

日本のかつての道徳教育による「勤勉と相手に迷惑かけない精神」が働き過ぎだけではなく、世の中を他人に不寛容な社会にしています。

「迷惑かけない精神」は「迷惑かける人は悪」という道徳を生み出すからです。

コロナ禍での「マスク警察」は典型例です。

長野市の子供の声がうるさいから児童公園廃止問題や、電車での赤ちゃんの泣き声さえも迷惑がる人も同類です。 

この「道徳」は、「助けてあげる必要のある人」を「人に迷惑をかける人」に変えてしまいました。

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②「企業側」の問題~リスクとコストを比較できない

元明治大学理工学部教授 向殿政男*1氏の記事から一部引用して、日本と欧米「安全とリスク」考え方の違いをまとめました。

引用記事:SQ0812(004-008)01 (mukaidono.jp)

欧米では、ある程度のリスクを受け入れたうえで、リスクとコストを比較検討するという社会的合意が形成されています。

日本は、「絶対安全」が「安全」であり、そのため実現不可能な完璧主義にこだわり、安全性の水準が無制限にエスカレートし、コストも際限なく膨れ上がります。

大企業のコストを度外視した完璧なコンプライアンスの原因をさらに掘り下げました。

トップの保身

②管理部門がコンプライアンスを自己目的化

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過剰コンプライアンスにより消費者が被る3つの弊害

①読まない「取説」で増す危険

取扱い説明書(以降、「取説」)は、消費者のためにあるのではなく、企業(製造業者等)のための防衛手段です。

製造物責任法(以降、「PL法」)をご存じですか?

(名称には「Product=製品、商品」 「Liability=責任」の頭文字を使用)

平成7年7月1日に施行された法律で、「製造物の欠陥」による損害から、消費者の保護・救済を目的としてつくられました。

製品物の欠陥」には、3つの種類があります。

①設計の段階で安全性が認められない「設計上の欠陥」

②製造の過程で安全性が損なわれた「製造上の欠陥」

③安全性を保つための情報を明示しなかった「指示・警告上の欠陥

この3つの内、「取説」に関係するのは3つめの「指示・警告上の欠陥」です。

「取説」が不完全なものであれば、事故が起きた場合、製造業者及び関係者は責任を問われる恐れがあります。

たとえ製品自体に事故の原因はなかったとしても、PL上「取説」に不備があるとされた場合、訴訟に発展する可能性があり、社会的にも関心の高いニュースとして取り上げられることになります。

そのために企業は、事細かにすべてを網羅した「取説」を作成するのです。

「消費者にちゃんと読んでもらい」「しっかり消費者を守ろう」なんて言う気はさらさらありません。

それよりも「漏れは無いか?」「どこをつつかれても法的責任は生じないか?」が重要なのです。

そういったことを熟知した「取説」作成の専門業者も存在するくらいです。

読みづらい「取説」を企業に押し付けられ、リスクが増すのは消費者の方です。

②オオカミ少年*2現象で増す危険

2017年4月29日の朝、北朝鮮が同月3回目の弾道ミサイルの発射を行いました。

韓国ソウルの交通機関は通常の運行を続けた一方、東京の地下鉄は安全確認のため一時運転を休止しました。

それに対し韓国のマスコミは「大げさ」との論調でした。(2017.5.1付け「朝日新聞」)

また、東日本大震災以降、地震発生時の報道も以前より詳しく、扱いも大きくなってきました。

これは世間の不寛容さが増すことに対応した、責任逃れ対策の強化が原因です。

「万が一に備えて」というのは正論ですが、毎回空振りでは危機感がマヒしてしまい、むしろ危険が増します。

役所だけではなく、民間企業の過剰なコンプライアンスも同様です。

責任を追及されたくない気持ちが強すぎて、過剰な注意喚起が反って消費者の危機感受性をマヒさせることになります。

③全品自主回収による膨大な社会的ムダ

「ペヤングソースやきそば」のゴキブリ混入事件というのがありました。

ゴキブリが混入していたとネットに投稿された「まるか食品」は当初、同じ生産ラインの商品2種類の自主回収を発表しましたが、他者への寛容度が低い世間からの「食の安全への認識が甘い」という声に負けて、全商品の自主回収と生産販売中止に追い込まれました。

その後、同様な不祥事が起こるたびにブランドイメージが傷つくこと恐れた企業は、先手を打って大がかりな商品回収を行うのが一般的になってしまいました。

2021年には、安全性に問題なくても保健所指導により、ワサビを自主回収ということも発生しました。

消費者側の「容赦ない寛容度の低さ」と企業側の「コストなき完璧主義」が相まって、日本では膨大な社会的ムダ、コストが発生しています。

参考記事:「ペヤング事件」とは、いったい何だったのか 0.00025%の確率が問い掛けた教訓 | 世界の(ショーバイ)商売見聞録 | 東洋経済オンライン (toyokeizai.net)

参考記事:安全性に問題ないが9社が次々自主回収決定「塩にヨウ素添加」法律遵守とはいえ、わさび好きにとっては涙(井出留美) - エキスパート - Yahoo!ニュース

 

 

まとめ

コンプライアンスが過剰になる2つの理由です。

「消費者側」の問題~他人に非寛容な日本社会

「企業側」の問題~リスクとコストを比較できない

さらに企業側の原因を掘り下げました。

トップの保身

管理部門がコンプライアンスを自己目的化

過剰なコンプライアンスにより消費者が被る弊害事例です。

読まない「取説」で増す危険

オオカミ少年現象で増す危険

全品自主回収による膨大な社会的ムダ

 

 

*1:明治大学大学院工学研究科電気工学専攻博士課程修了。工学博士。明治大学理工学部教授を経て、現在、明治大学名誉教授。「安全学」のエキスパートとして、機械安全、製品安全、労働安全、消費者安全などの研究に従事。官公庁の審議委員なども多数務めている。

*2:イソップ寓話のオオカミ少年では、羊飼いの少年が「オオカミが来た」とうそをつく。村人たちは武器を持って戦おうとするが、徒労に終わる。何度も繰り返すうちに村人たちは信用しなくなり、本当にオオカミが来て村の羊が全て食べられた、というものである。