最近の住宅は、どういうわけか平屋が大流行りです。
特に終の棲家(老後の住まい)となると、普通は2階建てより平屋に軍配があがるでしょう。
しかし、2階建ての終の棲家が必ずしも悪いとはいえません。
この記事を読めば、2階建ての家の利点を理解し、終の棲家の計画における選択肢を広げることができます。
①平屋メリットデメリットの定説
②平屋メリット(定説)に対する筆者の反論
③平屋デメリットの補足説明
一級建築士の筆者が、注文住宅の終の棲家は本当に平屋がいいのか?ユーザー目線で解説します。
※この記事は、都内など大都市ではなく一般的な地方都市を前提としています。
※設計で解決できるような事項や見た目などの主観的な事項はメリット・デメリットとして取り上げていません。
<筆者略歴>
1984年 東京大学工学部建築学科卒業後、ゼネコンに入社
1988年 インフラ企業に転職
主に大規模遊休地の不動産開発に携わる|分譲マンション開発(単独開発の他、大手不動産会社と共同開発)、戸建て分譲地開発(大手ハウスメーカー建築条件付き分譲地)を多数経験
2018年 子会社の不動産会社に転籍
2023年 退職
<資格>
一級建築士(管理建築士)
目次
平屋メリットデメリットの定説
①メリット(2階建てとの比較)
(ⅰ)階段が無いので楽
(ⅱ)高さが無いので地震などの揺れに強い
(ⅲ)地平なので地震・火事のとき逃げやすい
(ⅳ)足場がいらないので外壁のメンテンナンス費が抑えられる
②デメリット(2階建てとの比較)
(ⅰ)同じ延床面積を確保するには2倍の建築面積建*1が必要で、その分広い敷地が必要
(ⅱ)床面積当たりの基礎工事、屋根工事が増え工事費が高くなる
(ⅲ)かなり郊外でない限り隣接建物があるため日当たりや風通しに支障が出る
平屋メリット(定説)に対する筆者の反論
「(ⅰ)階段が無いので楽」に対する筆者の反論
階段が無ければ確かに楽ですが、毎日の階段の上り下りを健康寿命を延ばすための運動習慣と考えることもできます。
シニアの筋肉は使わなければどんどん衰えます。
樋口満著「体力の正体は筋肉(集英社新書)」によると、わずか3週間ベッドから降りない生活を続けただけで、下半身の筋量は2~10%減少し、筋力は男女ともに平均で20%低下するそうです。
特に、日々スポーツジムなどでトレーニングしているシニアが、階段は面倒というのはどうも腑に落ちません。
東京の高齢者は、地下鉄駅の長い階段を上り下りするので、寝たきりが少ないという話を聞いたことがあります。
毎日の階段の上り下りに、健康寿命を延ばす効果があるのは確かです。
発想を変えて寝たきり防止に努めませんか?
参考記事:日本が「寝たきり大国」になってしまった理由 | ZUU online
「(ⅱ)高さが無いので地震など揺れに強い」に対する筆者の反論
建物の耐震性を定める建築基準法は、過去大地震が起きるたびに見直され2000年に「新耐震基準」として改正されました。
耐震等級は等級1~3の3段階あり「新耐震基準」で建てられた建物は等級1になります。
等級2は等級1の1.25倍、等級3は等級1の1.5倍の強度です。
最近は地震に対する関心の高まりから等級3が最低ラインで、それ以上の耐震性能を標準にしているスーパー工務店もあります。
こういった厳しい基準に基づいて構造設計されているため、2階建てだから地震に弱いということは決してありません。
参考記事:建築基準法の耐震規定の変遷 | INPLACE architects
平屋デメリットの補足説明
(ⅰ)同じ延床面積を確保するには2倍の建築面積が必要で、その分広い敷地が必要
民法234条により敷地境界線と建物の間は50cm以上空ける必要があります。
また、駐車スペース2台分(15㎡/台)と庭をとると結構な面積がいります。
延床面積30坪程度の家を建てるなら60坪の土地面積は最低必要でしょう。
ハウスメーカーが建築条件付き分譲地を売り出しますが、最近の建設費高騰を受けて一区画当たりの分譲土地面積を小さくする傾向にあります。
一区画が60坪以上の分譲地を見つけるには、かなり郊外へ行く必要があるでしょう。
かなり郊外なら割安な広い土地がありますが、資産としてはあまり流動性がなく(売り難く)将来子孫が困るかもしれません。
(ⅱ)床面積当たりの基礎工事、屋根工事が増え工事費が高くなる
2階建て場合は、1階と2階で基礎と屋根を共有できるので工事面積は平屋の場合の半分で済みます。
逆に言うと平屋の基礎工事と屋根工事は、2階建ての倍かかると言うことになります。
平屋は階段工事が無い分安くなりますが、その分を差し引いても工事費は全体の一割程度はアップします。
さらに地震時の液状化を防ぐためなど地盤改良が必要な場合も、2階建ての倍の改良費がかかることになります。
(ⅲ)かなり郊外でない限り隣接建物があるため日当たりや風通しに支障が出る
接道してる方角に、駐車スペースや庭を造るのが建物の配置計画上合理的です。
それ以外の方角では、建物と隣地境界の距離は、相当広い敷地でない限り、民法上定められている最低距離50cmになる可能性が大です。
通常2階建て以上の建物に囲まれているため、平屋では有効な採光・通風をとることが難しくなります。
まとめ
平屋人気の最大の理由は、1階と2階の行き来の必要が無いので老後が安心ということでしょう。
しかし、この選択は健康寿命を自ら縮める選択かもしれません。
いざとなればホームエレベーターを設置することも可能です。
特に、健康習慣や運動習慣がある方は、日常の中に適度な運動を取り入れられる2階建てをおすすめします。
*1:築面積とは建物を真上から見たときの面積