「特定の基準や条件に基づいて優秀な人たちを選別するのが当たり前だ」という考えに基づいてある特定の集団や個人を選別し、その他を排除してしまう考え方を選別主義といいます。
選別主義は、平等や公正という価値観と対立する概念です。
しかし、なぜか批判されることもなく広く社会に受け入れられ、多くの犠牲を払ってでも選別されようと努力する人が後を絶たちません。
この記事を読めば、選別主義の本質が分かります。
※1 JTCとはJapanese Traditional Companyの略で、古い体質の日本の伝統的な大企業を揶揄するネットスラング
②入社時の選別による不条理
③選別されたエリートたちの実像とは?~とあるインフラ企業の場合
選別主義がはびこるJTCで40年間の勤務経験がある筆者が、選別主義の矛盾と不条理|選別されたエリートたちの実像について解説します。
<自己紹介>
筆者本人(1960年生)
筋トレ歴16年 ボクシング歴10年
<筆者略歴>
1984年 東京大学工学部建築学科卒業後、ゼネコンに入社
1988年 インフラ企業に転職
2018年 子会社の不動産会社に転籍
2023年 退職
目次
試験による選別の矛盾
ずいぶん前から創造的な能力がいっそう重要になるといわれていますが、その能力を試験で選別しようという矛盾が今も続いています。
創造力を数値化するのはどう考えても無理です。
入学試験や入社試験で、創造力判定に何が必要か分からないため、何でもとりあえず選別の基準に取り入れてしまいます。
選別のハードルは次々と設けられ、ハードルの数が増えれば増えるほど創造力のある個性的な人間はふるい落とされていくことになります。
その結果、正解のある問題しか解けない、創造力の無い優等生ばかりが選別されてしまうという矛盾に陥っています。
入社時の選別による不条理
太田肇著「選別主義を超えて」によると「将来の幹部候補生を早期に選抜し、別コースで育成するケースが増えてきた」ということです。
ではどうやって選別されるのか?
河合薫著「他人をバカにしたがる男たち」から引用します。
昇進と業務実績との関連を”統計的な手法”で分析した論文のほとんどで、「業務実績のよさと」と「昇進」との間には統計的に有意な関連は認められません。
つまり、「業務実績が高い⇒昇進」というわけではないのです。
では何が関連しているのか?
「学歴」「採用時に自分が〇をつけたか否か」「入社時の評価」「性別」です。
採用時に自分が〇をつけた人を昇進させる・・・・、なんとも人間臭い理由で昇進は決まるのです。
引用文の「昇進」も「選別」の一形態です。
このように「選別」とはまったく恣意的(いいかげん)なものであり、「運」しだいといって過言ではないのです。
このように不条理な日本の大企業が、GAFA※2のような企業に成長することは絶対にありません。
※2 GAFAとはGoogle、Apple、Facebook(現Meta)、Amazonの4社の頭文字をとってつくられた言葉です。
「採用時に自分が〇をつけたか否か」これは、「一貫性の原理」のせいです。
根底に「一貫性を保つことは社会生活において他者から高い評価を受けるという考え」があります。
引用記事:一貫性の原理 - Wikipedia
選別されたエリートたちの実像とは?~とあるインフラ企業の場合
筆者が現役時代に見てきた、これからご説明するようなエリート達※3が企業のリーダーでは、日本が時代から取り残されて凋落するのは無理もないでしょう。
※3 念のために補足します。筆者は東大卒ですが建築学科出身なので、インフラ企業では選別の対象外です。
①過去のデータを駆使するチャットGPT型優等生
チャットGPTの学習データは、インターネット上に公開されている大量のテキストデータを使用しています。
具体的には、ウェブページ、書籍、ニュース記事、雑誌、論文、ウィキペディアなど、さまざまな種類のテキストデータが含まれています。
したがって、前例に基く受け答えはできますが当然未来は予測できません。
前例主義で決して冒険しない優等生というわけです。
こう言う人物は、伝統的な大企業(JTC)の現状維持に終始する、守り一辺倒の経営陣から大変高い評価を得ます。
②3つの得意技を駆使する名役者
選別されたエリート達が予定通り役員になるポイントはただ一つ、絶対にリスクを取らず減点主義をいかに切り抜けるかです。
ただし、単なる守り一辺倒ではいけません。
a)ムーンウォークの名手
選別されたエリート達は、果敢にチャレンジしているように見せかけるのがたいへん上手です。
実際は全く前に進んでないか、むしろ後退していることもあります。
b)効かないプロレス技が好き
選別されたエリート達は、決してリスクを冒すような施策を実行しません。
形式的で失敗のリスクが無い、従ってPL/BSに現れない施策のみ実行します。
やってもやらなくても実質経営に影響のない、やらないよりはやった方がましかもしれない施策です。
例えば、頻繁に実施する組織のマイナーチェンジ、人事評価制度のマイナーチェンジ、何かのルール作りなど実施しても意味の無いものばかりです。
彼らの行う施策は、実質的な効果より、プロレス技のように技をかけているところを見せることに意味があるのです。
プロレス技のようなお芝居の実績を積み上げて出世していきます。
c)成果の錬金術師
選別されたエリート達は、リスクの無い施策の取るに足りない成果を大きく見せることが得意です。
数字で表すことができない成果なのでどうにでもなります。
まさに「無」から「有」を生む成果の錬金術師です。
③社長になったら大過なく過ごす
大企業(JTC)の社長は、前項の3つの得意技を駆使しつつ、「出世すごろく」で運よく「上がり」に到達したサラリーマン社長です。
彼らは、ベンチャー企業などの起業家社長とは根本的に違い、経営のエキスパートではありません。
したがって、彼らにとっては「上がり」がゴールであるため、任期中に「〇〇%の企業成長を目指す!」なんてことは絶対にありません。
彼らは、任期中大過なく過ごすことだけを目指し、何らリスクを取ることなく現状維持に徹します。
このような状況では、ここ30年の日本の凋落は無理もありません。
まとめ
日本のここ30年の凋落ぶりは、世界競争力ランキングや時価総額ランキングが示すように惨憺たるものです。
その一因として、選別主義があげられます。
選別主義は組織の理論ですが、その組織もITによる社会の新しいシステムによりその必要性が崩壊しつつあります。
そもそも「組織」は、市場での取引でかかる様々な費用を削減するために生まれたものです。
しかし、インターネットをはじめとするITの発達により、だれでも適当な取引相手を低コストかつ短時間で見つけることができるようになりました。
このように大きな組織の必要性や優位性は薄れつつあるなか、従来の働き方に早々に見切りを付けたトップ・エリートたちは、本郷バレーに集まりつつあります(下図参照)。
本郷バレーとは、東京・本郷エリアに集まるスタートアップ企業の集積地です。
このエリアは、特にAI関連の起業家が集まり、AI開発に特化したスタートアップが活動しています。
引用:AI開発で注目を集める日本のスタートアップが集積する「本郷バレー」
組織が個人を、価値一元的な評価システムで恣意的に評価し、それによって地位や賃金が決まるのではなく、市場に対する個人の適応力の度合いによって個人の評価や収入が決まる時代になりつつあります。
これまで組織により不当に冷遇されてきた人たちも、実力にふさわしい報酬と地位を得られる可能性が高くなりつつあるのです。
日本にもGAFAのような世界をリードする企業が生まれる時代が来るかもしれません。
参考:【転職】スタートアップの現状|魅力と注意点を大企業との比較で解説