「田中さん(仮称)仕事するふりして、またネットサーフィンしてる」
「高い給料もらっていて恥ずかしくないの?」
「なぜこの会社どの部署も、あんなおじさんいるの?」
こんな疑問にお答えします。
②「働かないおじさん」が発生しない雇用形態とその事例
40年間の大企業でのサラリーマン人生を終えて今年(2023年)退職した筆者が、大企業に「働かないおじさん」がいるのは当然な4つの理由と「働かないおじさん」が発生しない新しい働き方について解説します。
<自己紹介>
筆者本人(1960年生 2023.11撮影)
筋トレ歴16年 ボクシング歴10年
<筆者略歴>
1984年 東京大学工学部建築学科卒業後、ゼネコンに入社
1988年 インフラ企業に転職
2018年 子会社の不動産会社に転籍
2023年 退職
目次
大企業に「働かないおじさん」がいるのは当然な4つの理由
理由1:メンバーシップ型雇用がもはや破綻している
「働かいおじさん」が悪い訳ではありません。
いつまでたっても従来型の日本の雇用形態、すなわちメンバーシップ型雇用を新しい雇用形態にパラダイムシフトできない経営陣に責任があります。
「働かないおじさん」も若いころは、給料以上に働いていました。
割りの合わない仕事でも若いころ頑張ったのは、将来、元が取れる雇用形態(=メンバーシップ型雇用)だからです。
メンバーシップ型雇用は、終身雇用と年功序列の2つの制度で成り立っています。
そもそも、終身雇用と年功序列の2つの制度は、1980年代以前の古き良き工業社会時代に成功した雇用制度です。
工業社会時代は、藻谷浩介著『デフレの正体 経済は「人口の波」で動く』で指摘されているように、人口増に伴う内需の拡大により経済も発展しました。
下のグラフをご覧ください。
凡例:青が総人口、赤が名目GDP
引用記事:グラフで見る日本の人口推移
2011年までは、人口増に伴い名目GDPも年ごとの増減はあるものの増加基調でした。
この人口が増えた時代、特に1980年代年までの「モノをつくれば内需で簡単に売れた時代=工業社会時代」は、メンバーシップ型雇用も企業経営と相性のよい時代だったと言えます。
皆で力を合わせ「一致団結」で、欧米に追い付け追い越せのキャッチアップ型経済の時代です。
ところが人口が減少に転じて(2011年)経済成長が完全に終わり、単純に内需でモノが売れる時代が去ると状況が変わりました。
メンバーシップ型雇用の賞味期限は完全に切れたのです。
ではなぜ日本の大企業は、相変わらず終身雇用制度と年功序列制度をとっているのでしょうか?
理由は、大企業の経営陣が、あまりにも長い間その成功体験から抜け出せなかった雇用形態を捨て去る勇気が無く、自分の任期中に雇用形態を変える気が全くないためです。
大企業の経営陣が問題を先送りしてきた、ここ30年間の日本の凋落は惨憺たるものです。
奇しくも、日本が人口減少に転じた(2011年)ごろGAFA時代が始まった
(下記引用文参照)
最初にGAFAという言葉を提唱したのは、フランスの経済学者であるフィリップ・エスカンダル氏です。
彼は2012年に出版した著書「L'Age de la multitude」(多数派の時代)で、GAFAという言葉を使って、インターネット時代における新しい経済モデルや社会変化を分析しました。
引用記事:GAFAやGAFAMの概念の歴史
理由2:そもそも日本のホワイトカラーは世界的に見て超非効率で人余り
筆者の記事『日本の労働~「量」「質」国際比較』で解説している通り、日本のホワイトカラーは人余りであり、仕事は超非効率です。
深刻な人手不足は介護、物流、小売販売などエッセンシャルワークや中小企業に偏っており、大企業などのホワイトカラーは慢性的な人余り状態が続いています。
また、バブル期に大量採用した40代後半から50代の人材がダブついているのは多くの日本企業に共通する課題です。
人余りでブルシットジョブに明け暮れる大企業では「働かないおじさん」の大量発生は避けられません。
理由3:みじめでつらい役職定年者が働くわけがない
役職定年制とは、管理職が所定の年齢(55~60歳が多い)に達した時に、ラインから外れて役職を離れ、給料も減額される制度のことで、はっきり言いますとポストの新陳代謝と人件費削減を図るための「潜在的余剰人員宣告」です。
背景には、1986年に施行された高年齢者雇用安定法とその後(2013年、2021年)の法改正による定年の延長があります。
厚生労働省の「平成21年賃金事情等総合調査(退職金、年金及び定年制事情調査)」によると、従業員1000人以上規模の企業の約50%は役職定年制度を導入しており、企業規模が大きくなるほど導入比率も高くなっています。
「役職定年を迎えた後、役職を外れ部下のいなくなった元管理職が、同じ部署で同じ仕事を安い給料でしている」という姿が、典型的な役職定年者の姿です。
こんな処遇では、まともに働く「おじさん」がいるわけがありません。
理由4:大企業のサラリーマンは何もしない方が得
大企業は経営が安定しているため、何か新しいことを始めると周りの人が迷惑します。
周りとは、先ずトップ。
トップになれば、もう頑張る必要はありません。
「在任中、大過なく」を目指しているので、余計なことでリスクは負いたくありません。
次に、上司や上層部。
失敗したら責任をかぶらなければならないし、成功したら優秀な部下に嫉妬が起こるのでやりたくありません。
次に、同僚たち。
頑張っても、まともな業績評価はしてもらえないことが分かっているので、やるだけ損です。
また、新しいことをやると、過剰なコンプライアンスを自己目的化している暇な内部監査部門が張り切って監査を始めるので、細かの報告書作成などムダな仕事が増え辟易します。
大企業のサラリーマンは、そもそも何もしない方が得なのです。
太田肇著「何もしない方が得な日本」より以下引用
職場では「働かないおじさん」問題が話題になり、各種調査の結果を見ると日本人の仕事に対するワークエンゲージメント※も世界最低レベルにある。
※熱意、献身、没頭の三要素を特徴とする仕事に対するポジティブな心理状態
新しい働き方の方向性と事例
「働かないおじさん」を発生させない働き方のヒントは、人手不足に苦しむ中小企業にあります。
中小企業は、労働条件の悪さで離職率が高いという内圧と、大企業の搾取や他社との競争の厳しさなど外圧にさらされています。
中小企業は、こう言った不利な条件を逆手にとって、個人の裁量が大きく働きがいのある働き方を始めています。
それは同志社大学政策学部教授 太田肇氏が提唱する「自営型」という働き方です。
「自営型」とは、組織に属しながらも職務を細かく定めず、ある程度まとまった仕事を一人で自営業のように受け持つ働き方で、最近注目されつつあります。
深刻な人手不足の中小企業では、大企業のように皆で力を合わせて非効率な業務をこなしている余裕はありません。
一人何役もこなすことで、人手不足をカバーすると共にムダな仕事(調整業務や会議など)を減らします。
最近は、大企業でもこう言った働き方が始まりつつあります。
サントリービール株式会社のマーケティング本部イノベーション部の事例です。
昨年開発された、350ミリリットル缶を装置に入れるだけで樽詰のビールサーバーから注がれたような冷たさや泡立ちのビールを提供できるビールサーバーは、実質一人で完成させました。
市場調査、商品企画、商品製作委託、営業すべて一人です。
今後の新しい働き方として、「自営型」はおじさん社員サラリーマンのエンゲージメントを高める切り札になるかもしれません。
引用:サントリーが缶ビールを「生ビール」にする新サーバーで需要掘り起こしへ | Business Insider Japan
引用:「日本の従業員エンゲージメント低い理由と新しい働き方」
まとめ
大企業に「働かないおじさん」がいるのは当然な4つの理由です。
理由1:メンバーシップ型雇用がもはや破綻している
理由2:そもそも日本のホワイトカラーは世界的に見て超非効率で人余り
理由3:みじめでつらい役職定年者が働くわけがない
理由4:大企業のサラリーマンは何もしない方が得
おじさん社員のエンゲージメントを高める今後の新しい働き方として、同志社大学教授 太田肇氏が提唱する「自営型」という働き方があります。
この働き方は、メンバーシップ型雇用が破綻している大企業の新しい雇用形態の切り札として期待されています。