ながら江雪の人生ノート

現役サラリーマンと定年シニアのお悩み解決

MENU

メンバーシップ型雇用の崩壊でJTCの組織と働き方はどう変わるべきか?

日本独自の雇用システムであるメンバーシップ型雇用は、もう時代に合わないと言われ始めてかなり経ちますが、未だに抜本的に見直されていません。

しかし、メンバーシップ型雇用の3本柱である新卒一括採用・終身雇用・年功序列は、実質的には機能しなくなっており、そのしわ寄せは全て社員が被っています。

JTCの経営者がすごろく上がりのサラリーマン社長のままでは、リスクを取って根本治療に踏み込む勇気がないため、なにをやっても対症療法でしかなく、結果として、日本式経営の特徴であるメンバーシップ型雇用を惰性で継続してしまっている状況です。

その結果は、日本の凋落ぶり(世界競争力、時価総額、名目GDP)低い日本の労働生産性~「量」「質」国際比較世界的に見て低すぎる日本の従業員エンゲージメント蔓延する大企業病が示す通りです。

この記事では、ポスト工業社会※に適応するため、JTCの組織と働き方はどう変わるべきか提言します。

※ポスト工業社会とは、失われた30年の間に、需要の飽和とニーズの多様化・専門化が進み、その変化も加速した社会です。具体的には、2010年代以降のGoogle、Apple、Facebook、Amazonなど巨大IT企業が世界の経済をけん引してきた時代が特にその象徴的な時代です。これに対し、工業社会とは、人口増による内需でモノをつくれば簡単に売れた少品種大量生産の時代で、日本では概ね1980年代以前の社会を指します。
 

■この記事を読んで頂きたい人■
・将来の日本を背負って立つ大企業(JTC※)の若手サラリーマン
※JTCとはJapanese Traditional Companyの略で、古い体質の日本の伝統的な大企業を揶揄するネットスラング
 
 
■この記事でわかること■
①メンバーシップ型雇用とは?~成立の歴史とその本質

②メンバーシップ型雇用の崩壊~3つの実例

③メンバーシップ型雇用の崩壊でJTCの組織と働き方はどう変わるべきか?
 

大企業病が蔓延するJTCに長年勤務して、いい加減ウンザリした筆者が、メンバーシップ型雇用の崩壊でJTCの組織と働き方はどう変わるべきか?について解説します。

<自己紹介>

筆者本人(1960年生 2023.11撮影)
筋トレ歴17年 ボクシング歴11年

<筆者略歴>
1984年 東京大学工学部建築学科卒業後、ゼネコンに入社
1988年 インフラ企業に転職
2018年 子会社の不動産会社に転籍
2023年 退職

 

      

 目次

 メンバーシップ型雇用とは?

メンバーシップ型雇用とは、新卒一括採用・終身雇用・年功序列を3本柱とする日本独特の雇用システムで、まず労働力を確保して、その後仕事を割り当てる雇用形態です。

このような雇用システムが、なぜ成立したのでしょうか?

その成立の歴史から解説します。

成立の歴史

メンバーシップ型雇用が広まったのは、1950年代後半から始まった高度経済成長期です。

本題に入る前に、先ず高度経済成長の背景を簡単に解説します。

下のグラフをご覧ください。

総人口(青が総人口)の伸びと名目GDP(赤が名目GDP)の伸びが、1990年ごろまでシンクロしています。

引用記事:グラフで見る日本の人口推移

日本の高度経済成長を支えた最も大きな要因は、急激な人口増による内需の拡大です。

驚異的な高度経済成長は、当時「東洋の奇跡」ともてはやされましたが、奇跡ではなく必然です。

その後、中国やインドが同じように人口増に伴って経済成長を遂げているのも同じ理屈です。

「人口の波」による経済変動については、藻谷浩介著『デフレの正体 経済は「人口の波」で動く』に詳しく書かれていますので、興味のある方はお読みください。

人口増による内需拡大の時代は、アメリカなど先進国の商品を真似して、より安くて良いモノをつくれば簡単に売れた時代です。

そうなると残る経営課題は、急速な経済拡大で不足する労働力の長期的かつ安定的な確保です。

そこで編み出されたのが、新卒一括採用・終身雇用・年功序列を3本柱とするメンバーシップ型雇用です。

このようにメンバーシップ型雇用は、高度経済成長時代の労働力の囲い込み戦術が起源なのです。

メンバーシップ型雇用の本質

メンバーシップ型雇用の本質を、「経営者の視点」と「社員の視点」に分けて以下解説します。

【経営者の視点】

若いときは給与を低く抑え、年齢が上がるにつれて給与を上げ(年功序列)、退職金を受け取ってやっと元が取れる仕組みにすれば、以下のように社員を奴隷化できる

①退職金をもらえるまで長期間囲い込めるし、途中で解雇されると損なので、会社の言いなりになって真面目に働くはず

②とりあえず労働力を確保して、仕事の割り振りや勤務地は会社側の勝手な都合で決めても終身雇用の代償として我慢するはず

③異動で仕事の内容が頻繁に変わるため、専門的なスキルを身につけることができず、結果として中途半端なスキルの持ち主になり転職もできない

【社員の視点】

①歳をとるにつれて生活コストがあがるけど、この仕組みなら安心

②これで定年まで生活が安定するので安心

このように社員は「安心」を手に入れるために、理不尽な制度をよろこんで受け入れ、自己家畜化してきたわけです。

 

 

メンバーシップ型雇用の崩壊~3つの実例

メンバーシップ型雇用の限界は、すでに20年以上前に起こった成果主義ブームという形で議論が始まりました。

ジョブ型雇用や成果主義の導入が試みられてきましたが、結局は中途半端な「なんちゃって経営改革」だったため失敗に終わりました。

その後もだらだらと時代遅れのメンバーシップ型を続けた結果、日本企業の競争力は低下し企業の時価総額も激減しました(下図参照)。

【世界時価総額ランキング TOP50 1989年と2023年の比較】

引用:2023年世界時価総額ランキング

1989年のTOP50には日本企業が32社(6割強)ですが、2023年では0社(2024年2月現在)です

【関連記事:日本の凋落ぶり(世界競争力、時価総額、名目GDP)

日本企業の競争力低下以外にもメンバーシップ型雇用崩壊への圧力は、以下の実例が示すように高まっています。

実例1:新卒一括採用の崩壊~0年転職の増加

人材サービス会社マイナビが行った転職活動における行動特性調査2024年版」※によると、5人に1人(20.1%)は、前職を「勤続1年未満」で退職していることが分かり、2021年の調査開始以降初めて2割を超えました。

正社員の20~50代男女のうち、直近1年間(2023年6月以降)に転職活動をした1600人を対象

「1年未満」と回答した割合を年代別で見ると、30代から50代では20%未満でしたが、20代では26.8%と最も高い割合を示しました。

さらに、一般的に早期離職の基準とされる「3年未満」に該当する人の割合は、前年比で3.6ポイント増の42.9%でした。

一人当たり約90万円のコスト(相場)をかけて新卒を一括採用する意味が、年々薄らいでいます。

 

 

実例2:終身雇用の崩壊~早期・希望退職の増加

下のグラフは、上場企業におけるリストラ(早期・希望退職による40~50代社員の追い出し)の推移です。

棒グラフはリストラを実施した企業の数を示し、折れ線グラフはリストラされた人数を表しています。

引用:株式会社東京商工リサーチホームページ  TSRデータインサイト 2024年は上半期(1‐6月)

このグラフによると、リーマンショックや新型コロナウイルス感染症の拡大といった一時的な経営環境の悪化がないにもかかわらず、今年(2024年)の希望退職募集人数は上半期(1~6月)だけで既に前年比1.5倍に増加し、年間1万人を超えるペースで進行中です。

この背景には、リストラ(早期・希望退職による40~50代社員の追い出し)の目的が以下のように変化していることが一つの要因として挙げられます。

【従来の目的】

一時的な経営悪化を生産性が低い割に人件費が高い社員の削減でカバー

【これからの目的】

①70歳まで雇用延長時代を見越して、今のうちに生産性が低い割に人件費が高い社員を追い出す

②最新の技術に対応し競争力を維持するために、社員のスキルセット(※)を見直す

(※)仕事を遂行する上で必要とされる知識や技能の集合体

⇒ 人件費が高いだけで専門スキルが無く使い物にならない社員を追い出して、専門スキルと即戦力のある中途社員を大量に採用する

このようなリストラによる40~50代社員の追い出しの増加は、終身雇用の終焉を意味しています。

■関連記事■

実例3:年功序列の崩壊~役職定年制の限界で成果主義を導入

役職定年制度とは、管理職が所定の年齢に達した時に、ラインから外れて役職と部下をはく奪され、給料も減額される制度のことで、ハッキリ言ってポストの新陳代謝と人件費削減を図るための「戦力外通告」です。

この役職定年制は、1986年に「60歳定年」が努力義務化されたことを受けて、主に大手企業が導入を始めました。

その後、日本人の平均寿命が延びたこともあり、今や70歳まで雇用延長の時代です。

役職定年制度を今のままにしておけば、今後、以下のような状況が起こります。

①50代で役職定年になれば、70歳まで最悪20年近く「給料が下がり、部下を失って、モチベーションがすっかり落ちた部長以下の元管理職が場合によっては同じ職場に居続ける」ことになる

②それを見た社員のモチベーションは当然下がり、もともと低い従業員エンゲージメント は底をつく

このように、役職定年制が限界なのは明らかです。

次の展開は、役職定年制を廃止して成果主義(=年功序列の廃止)の導入です。

すでにパナソニックなどが、この展開で成果主義を導入しています。

表向きには、役職定年という年齢差別をなくし、年齢にかかわらず成果や能力に基づいて賃金や役職を決定することが目的です。

しかし、その裏では、役職定年の対象年齢を広げることで更なる人件費削減を目指しているのです。

もはや年功序列制は、風前の灯火(ともしび)です。

こぼれ話

そもそも年功序列は、高度経済成長時代しか無理でしょ!

経済が成長して会社組織が拡大しなければ、ポストが増えないので年功序列が破綻するのは当たり前です。

JTCのすごろく上がりのサラリーマン社長は、「任期中、大過なく過ごす」だけなので、企業は成長するはずもなく、ポストも増えないのでなおさらです。

 

 

メンバーシップ型雇用の崩壊でJTCの組織と働き方はどう変わるべきか?

「メンバーシップ型の次は、ジョブ型や自営型、更にはプロジェクト型へ」と言われて久しくなりますが、実際にはメンバーシップ型に替わる新しい雇用システムが思うような成果をなかなか出せません。

その原因は、高度経済成長期に確立された日本的経営体質が、今の時代に全く適さなくなったにもかかわらず抜本的に変革できていないことにあります。

では、どのような抜本的変革が必要なのでしょうか?

それは以下の5つです。

①同質化した人材による「共同体」から多様性ある人材による「機能体」の時代へ

「機能体」と「共同体」の違いを、堺屋太一著「組織の盛衰」を参考にして以下の表にまとめました。

「機能体」と「共同体」では、表に示す通り、それぞれ真逆の価値観が支配しています。

日本の企業、特に大企業JTCは、本来のあるべき姿「機能体」ではなく「共同体」です。

その理由は、高度経済成長期(工業社会の時代)の成功体験から未だに抜け出せず、「茹でガエル*1」状態に陥っているからです。

高度経済成長期は、皆が同じモノを生産する少品種大量生産の時代でした。

この時代は、同じような人材が力を合わせた方が効率の上がる「量」の時代です。

日本企業は「共同体」となって、欧米に追い付け追い越せのキャッチアップ経済を支えたのです。

しかし、今やとっくにポスト工業社会の時代であり、需要の飽和とニーズの多様化・専門化が進み、その変化も加速した「質」の時代です。

企業は「機能体」でなけれは、競争に負けて消えゆく身です。

 

 

②ジェネラリストからスぺシャリスの時代へ

ポスト工業社会の多様かつ専門的なニーズに対応するには、専門スキルを身に付けた多様なスペシャリストが必要です。

メンバーシップ型雇用の申し子であるジェネラリスト(何でも屋の素人集団)の出る幕ではありません。

■関連記事■
こぼれ話

欧米には、ジェネラリストはいません

したがって、「ジェネラリスト」は和製英語です。

これは、雇用形態の違い、すなわち日本のメンバーシップ型と欧米のジョブ型の違いに起因します。

日本のように新卒一括採用で労働力をとりあえず確保し、会社側の都合で仕事を割り振るため、数年で仕事の内容がコロコロ変わることもあります。

そのため日本のホワイトカラーは、結果的に、多かれ少なかれジェネラリスト化しています。

ジェネラリストという言葉は聞こえはいいですが、結局、身に付いたスキルは大したことの無い素人集団と言わざるを得ません。

欧米では、日本のホワイトカラーのようにコロコロ仕事が変わると、無能のレッテルを貼られてしまいます。

③「組織の力」から「個の力」の時代へ

スペシャリストが活躍する時代は、「組織の力」の時代ではなく「個の力」の時代です。

単なる組織の一歯車として、裁量権無く、責任範囲も不明確なまま、軍隊の様な組織でつまらない仕事をこなす時代はとっくに終わっているのです。

④ピラミッド組織からフラット組織の時代へ

「個の力」の時代は、上意下達のピラミッド組織では機能しません。

管理経験を積んだスペシャリストがスぺシャリス・マネジャーとしてチームをまとめるフラット組織の時代です。

上司はマイクロマネジメントではなく、情報提供やフォローなど部下と協力して仕事を進めます。

実務を知らないジェネラリストの上司が、部下に仕事を丸投げして、いざとなると「なんとかしろ」なんて言う封建時代のような組織とはオサラバです。

■関連記事■

⑤プロパー社員から中途社員の時代へ

専門性のあるスキルを身に付けた多様な人材をJTCが自前で育てるのは、時間やコストの問題というより、そもそも育てるノウハウが無いため所詮無理な話です。

伝統的に自前主義のJTCも、中途社員を大量に採用するしか方法はありません。

市場価値の高いスキルを持つ中途社員に適切な評価と待遇を提供しなければ、彼らは他社への転職を選ぶ可能性があります。

もはやプロパー社員が上から目線で中途社員をバカにする時代ではありません。

これからは、これといった市場価値あるスキルを持たないジェネラリストのプロパー社員が、即戦力のある有能な中途社員に居場所を奪われて、消えていく時代になります。

■関連記事■

 

 

まとめ

メンバーシップ型雇用の崩壊~3つの実例です。

実例1:新卒一括採用の崩壊~0年転職の増加

実例2:終身雇用の崩壊~早期・希望退職の増加

実例3:年功序列の崩壊~役職定年制の限界で成果主義を導入

メンバーシップ型雇用の崩壊でJTCの組織と働き方はどう変わるべきか?

①同質化した人材による「共同体」から多様性ある人材による「機能体」の時代へ

②ジェネラリストからスぺシャリスの時代へ

③「組織の力」から「個の力」の時代へ

④ピラミッド組織からフラット組織の時代へ

⑤プロパー社員から中途社員の時代へ

「メンバーシップ型雇用の次はジョブ型だ」というような短絡的な思考ではなく、組織や働き方をどうパライムシフトさせるかという議論が先です。

その議論の先に、ジョブ型や自営型、あるいはプロジェクト型など新しい雇用システムが実現するのです。

こぼれ話

生活インフラ企業は変われません

ほとんど競争にさらされない生活インフラ企業(電気、ガス、道路、鉄道など)は、守りの仕事しかありません。

従って、変革の必要は無いでしょうし、どう頑張っても変革できる企業風土ではありません。

いつまでも、古い日本型経営体質が続くことでしょう。

 

 

*1:茹でガエルとは、徐々に環境が変化していく中で、その変化に気づかずに致命的な状況に陥ることを警告するたとえ話です。生きたカエルを水からゆっくりと沸騰させると、危険を察知せずにそのまま茹でられてしまうという話に基づいています。