ながら江雪の人生ノート

現役サラリーマンと定年シニアのお悩み解決

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「静かな退職」が大企業に広がるのは当然である4つの理由とは?

「言われたことしかやらないし、終わればサッサと帰っちゃう」

「がんばって出世しようという気がさらさら無い」

「別に不満があるようでもないし」

「こんな社員が増えては、当社の将来が心配だ😞」

こんな社員が増えるのには、理由があるんです。

■この記事を読んで頂きたい人■
・大企業の管理職や人事部の方
 
 
■この記事でわかること■
①「静かな退職」3つの特徴

②「静かな退職」が大企業に広がるのは当然である4つの理由

③本当に「静かな退職」はダメなのか?

 

大企業で「静かな退職」を40代から実践し、趣味に生きるサラリーマン人生を歩んできた筆者が、「静かな退職」が大企業に広がるのは当然である4つの理由について解説します。

<自己紹介>

筆者本人(1960年生)
40代後半から「静かな退職」を選択して体づくりや趣味に励む
筋トレ歴16年 
ボクシング歴10年
ロックバランシング
スタンドアップ・パドルボード
卓球
ソロキャンプ
スポーツクラブのダンスフィットネス(リトモス、ズンバ、バイラバイラサルセーション

<筆者略歴>
1984年 東京大学工学部建築学科卒業後、ゼネコンに入社
1988年 インフラ企業に転職
2018年 子会社の不動産会社に転籍
2023年 退職

 

      

 目次

「静かな退職」3つの特徴

「静かな退職」とは、2022年にアメリカのキャリアアドバイザーがTikTokで提唱し、その後他のユーザーによる動画が話題となり、日本でも注目されるようになった言葉です。

ただアメリカから日本に来たのは、「Quiet Quitting(静かな退職)」という言葉だけで、この働き方自体は、日本でもずいぶん前からあります。

筆者自身も40代後半から「静かな退職」状態※1でしたし、筆者の職場では年齢を問わず多くの社員がそうでした。

 

※1 筆者が「静かな退職」を始めた理由は、意に沿わない異動が直接の原因でしたが、そもそも勤務していた某インフラ企業の「身分制度」に嫌気がさしていたからです。筆者は東大卒ですが、インフラ企業での建築学科卒の身分は低いものです。参考:【就活】大企業(JTC)の知られざる身分制度【経験者が実態を解説】

 

特に、親会社からの出向者や転籍者が多数を占める子会社では、社員全員が「静かな退職」状態にあると言えます。

「静かな退職」の3つの特徴は以下の通りです。

①昇格(出世)を目指さない

②言われたこと以上の仕事はしないが、言われたことはしっかりやる

③実際に退職する気はない

「静かな退職」は、定年退職が間近な社員のように、精神的に余裕を持った働き方を指し、昭和のモーレツ社員※2とは対照的なスタイルを意味します。

 

※2 「モーレツ社員」は、昭和時代に使われた言葉で、猛烈に仕事に打ち込むサラリーマンを指します。これは、家庭や私生活を犠牲にして会社に人生を捧げる姿勢を形容した言葉です。高度経済成長期の日本では、なりふり構わず会社のために尽力する社員の姿を表現した言葉として使われました。

 

上司の目から見れば「最低限の仕事」しかしないと言うことになり、まるで部下に問題があるように捉えられていますが決してそうではありません。

また、「静かな退職」はZ世代が云々など世代の問題としてよく扱われますが、1960年生れの筆者も「静かな退職」を選択したように、決して世代の問題ではありません。

根本原因は、時代の変化についてこれない、大企業の経営層や管理職にあります。

 

 

「静かな退職」が大企業に広がるのは当然である4つの理由

①がんばらないのは、がんばりに報いるポストや給与がもらえないから

モーレツ社員が活躍した高度経済成長期に「静かな退職」者がいなかったのは、世代の問題ではありません。

高度経済成長期は、日本経済の成長に伴い企業組織も拡大し、ポストや給与も増えた時代です。

要するに、当時は社員のがんばりに報いるだけのポスト増や給与の伸びがあったから、「静かな退職」を選ぶ人がいなかったわけです。

一方、現在はどうでしょうか?

業績が伸び悩む大企業は、部下や権限を持たない担当課長職を増やしたり、役職定年制といった姑息な手法を駆使して、年功序列や終身雇用を形だけでも保とうとしています。

それでは、なぜ無理をしてでも年功序列と終身雇用を保とうとしているのでしょうか?

それは、年功序列と終身雇用がもたらす安心感と引き換えに賃金を低く抑えることにより、無能な経営陣が責任を取るべき業績伸び悩みのシワ寄せを、社員に負わせることができるからです。

その証拠が、世界的に見て低い日本の賃金水準です(下図参照)。

【OECD加盟国35カ国の平均年収ランキング】凡例:日本OECD平均

引用:【2019年版】日本の平均年収は世界で何番目?

給与を抑制し、内部留保を増やすことで、どんなに怠慢な経営であっても、容易には現在の体制が崩壊しないような構造が築かれています(下図参照)。

【内部留保と粗利に占める人件費比率】凡例:内部留保人件費率ピンク

引用:積みあがる内部留保|リクルートワークス研究所 (works-i.com)

このように「静かな退職」は、体制の現状維持(権力の維持)に終始し、社員のがんばりに全く報いる気が無い経営陣に原因があります。

②最低限の仕事しかしないのは、上司が最低限の仕事しか指示できないから

「最低限」とはどういう意味でしょうか?

上司の指示に従って仕事をした結果が「最低限」なら、上司は「最低限」の仕事しか指示できないということを自ら告白しているようなものです。

要するに、こういう上司は仕事が分からないため、適切な業務指示が出せないわけです。

特に経済成長期の悪しき伝統「選別主義」で選ばれた素人集団エリート・ジェネラリストが上司になると必ずこういうことになります。

高度経済成長期は、モノをつくれば人口増による内需で簡単にモノが売れた少品種大量生産の時代ですから、素人上司でも管理能力があれば仕事はまわりました。

しかし、昨今の変化の激しいポスト工業社会では、素人集団エリート・ジェネラリスト(何でも屋)の上司では役に立ちません。

部下に丸投げして、部下の自発性(がんばり)に頼る上司は無能な上司と言わざるを得ません。

減点主義で決して自らはリスクを取らず 部下の自発性を期待して上手くいけば美味しいところを部下から横取りでは、部下が必要以上の仕事をやるはずがありません。

参考:大企業(JTC)の現場力の正体と現場力が失われた本当の理由とは?

 

 

③やる気が出ないのは、部下の自発性に頼る一方でマイクロマネジメントだから

仕事を部下に丸投げする一方で完全に任せず、マイクロマネジメントでは「言われたこと」しかしないのが当然です。

実際に自分の手で問題を解決した経験のあるスペシャリストの上司なら、「部下に任せた場合のリスクの程度」と「計画がうまくいかなかった際の対応策」は経験から理解しています。

素人集団エリート・ジェネラリストの上司は、仕事を知らないので部下に丸投げし、一方で心配になりマイクロマネジメントに陥ります。

これでは、部下のやる気が出るわけがありません。

参考:伝統的大企業の素人集団エリート・ジェネラリスト3つの弊害と対処方法

こぼれ話

「優秀」の意味が工業社会(1970年代以前)と現在のポスト工業社会では違います

工業社会の「優秀」は「万能型」で、ポスト工業社会のそれは「専門型」です。

ポスト工業社会においては、顧客ニーズの多様化と専門化が顕著です。

「量」から「質」の時代になったとも言えます。

こんなニーズの多様化と専門化が進んだ時代に「万能型」の「優秀」は、あり得ません。

④そもそも社長自体が「静かな退職」状態だから

大企業のサラリーマン社長は経営手腕とは関係なく、すごろく上がりで運よく出世した人たちです。

起業家あがりの社長と違い、彼らは決して経営のエキスパートではありません。

ですから、彼らは社長になればそれで「上がり」で、任期中に「新規事業を立ち上げて売上20%増を目指す!」なんて、これっぽっちも考えません。

考えているのは、決してリスクを取ることなく「任期中は大過なく過ごす」ことと、退任後の自分にとって都合のよい次期社長の人選です。

これって「静かな退職」そのものではないでしょうか?

「静かな退職」状態は社長に限りません。

他の役員や管理職もそれぞれの身分に応じて「上がり」になれば、「静かな退職」状態になります。

社員は、社長や幹部の鏡です。

大企業のサラリーマン社長以下、役員や管理職が「静かな退職」状態では、下々もそうなるのは当たり前です。

参考:【就活】大企業(JTC)すごろく上がりのサラリーマン社長の弊害とは?

 

 

本当に「静かな退職」はダメなのか?

年功序列と終身雇用が支える日本型雇用も限界と言われる中、「静かな退職」状態の従順な社員はむしろ都合のよい社員と言えます。

やることだけやってさっさと帰ってもらった方が労働生産性は上がりますし、サービス残業で労基署の指導を受けることもありません。

抜本的な事業構造の変革※3で企業成長を実現できない企業は、昭和のモーレツ社員のような社員がいたらかえって困ります。

 

※3 「すごろく上がりサラリーマン社長」ではとても無理ですが、最近は株の持合い解消に伴うアクティビスト株主(物言う株主)の台頭で、日立製作所のように事業構造の変革に取組む企業が出始めています。黒字でもリストラを行う上場企業が出始めたのもそれが一つの要因です。外圧に弱い日本企業の社長が株主対策のために重い腰を上げ始めたということです。参考:なぜ上場企業は黒字でもリストラするのか?【リストラ時代の働き方】

 

年功序列と終身雇用をなんとか続けていくには、「静かな退職」はむしろ好都合なんです。

まとめ

「静かな退職」3つの特徴です。

①昇格(出世)を目指さない

②言われたこと以上の仕事はしないが、言われたことはしっかりやる

③実際に退職する気はない

「静かな退職」が大企業に広がるのは当然である4つの理由です。

①がんばらないのは、がんばりに報いるポストや給与がもらえないから

②最低限の仕事しかしないのは、上司が最低限の仕事しか指示できないから

③やる気が出ないのは、部下の自発性に頼る一方でマイクロマネジメントだから

④そもそも社長自体が「静かな退職」状態だから

もう破綻したといわれる年功序列と終身雇用をなんとか続けていくには、「静かな退職」はダメではなく、むしろ好都合なんです。

参考:メンバーシップ型雇用の崩壊でJTCの組織と働き方はどう変わるべきか?